第06話 焦りは禁物
最近アルクはスキル:創造に凝っていた。
スキル:創造とは彼に与えられたユニークスキルで、任意のスキルを造り出せるものだ。
もちろん制限はあるし、創造にはスキルポイント(SP)と呼ばれるLVアップ時に加算されるポイントを使用する必要はある。
ただこれにも当然のごとく、裏技が存在した。
彼は目的を忘れない。
強さは必要だが目的ではない。
スキルもまた同様に手段の一つだった。
「ねぇねぇアルクはSP何に使うの?」
「秘密」
にべもない。
「教えてくれたっていいじゃん」
「考え中」
「じゃあ私はどうしたらいいと思う?」
木刀で打ち合いながらの会話だ。
「スキルレベルを上げる為には使わない方がいい」
「なんでなんで」
彼らは殺陣でも舞う様に打ち合いに興じている。
「SPの用途は幅広い、努力でまかなえないものに使うべきだ」
「まぁそうだよね。でも何にしようかな〜」
本来集中力の無い打ち合いなど危険極まりない。
しかし彼らはそれを十分承知している。
「ぼくの事は置いとくとして、コオリの今の取得スキルをまとめてから考えよう」
「うー、やっぱりずるいよ。少しは教えてくれてもいいよねー」
何故このような打ち合いを行うのか。
一つにはスキル:条件反射の練習の為。
「後で教えるよ。考え中なだけだよ」
「本当に教えてよね」
もう一つにスキル:並列思考、並列行動の取得の為。
「わかったって、まーこれ終わったら、まずコオリのやつから考えるか」
「うん、わかった」
最後に、咄嗟のときスキル使用不可能時の対応の為だった。
スキルとは技術の目安・具体例に当てられたものの名称だ。
スキルを所持していなくても行動は起こせるし、技術は身に付けられる。
ただ努力していればその行動にみあったスキルを取得するため、技術はあるが、スキルは無いという事はまずありえない。
しかし逆にスキルはあるが技術が伴わない、という事は存在する。
SP使用により身に付けたスキルは、ある程度の練習をしなければ十全に使う事ができない。
極論、SP使用によるスキル取得は必要となる努力の量が違うというだけだ。
そしてスキルの利点とは、本人が忘れてしまっているような事でも強制的に使用できる点にある。
一年剣を持っていなかった人でもスキルレベルは下らず、瞬時にレベルに応じた行動を思い出す事が可能だ。
また、そこには落とし穴もある。
スキルが使用できない状況というのも少なからず存在する。
全てがパッシブで発動している訳でもない。
いざという時、動けないでは意味はない。
だから体に覚え込ませておく必要がある。
「よし終了、どうスキル覚えた?」
「ううん、まだ覚えてない。始めてから2日目だし、そんなに簡単じゃないでしょ」
「まぁそっか。じゃあコオリのSPの使い道を考えるか」
SPの用途は大きく分けて四つある。
一つにスキルの取得。メニューに表示される項目から任意のものが取得できる。
二つ目にスキルのレベルアップ。スキルは上限10までレベルが上がる。
努力によっても上げられるが、SPによっても上げられる。上にいくほど消費SPは大きくなる。
LV3で一人前、6でベテラン、9で超人と言ったところだ。
三つ目にステータスの上昇。一定のSP消費により任意のパラメータの数値を上げられる。
ここまでが一般的なものだ。
どんな人でもこれらの行動を執る事ができる。
また、消費したSPは戻ってくる事はない。取得したスキルを取り消す事もできない。
四つ目、これは少々特殊なものになる。
例を一つ上げる。魔法合成というスキルが存在する。
魔法はスキルの一種と看做され、火魔法LV1、光魔法LV4などと表示される。
具体的な魔法は、その魔法LVに応じて使用可能となる。
火魔法LV1ではファイヤーボールとファイヤーウォールが使用可、といった具合だ。
魔法の種類については割愛する。
魔法合成スキルとは、それら既存の魔法を合成することで新たな魔法を創造するスキルだ。
その魔法合成時にSPを消費する。また、合成される魔法により消費されるSPは変化する。
このように特殊スキル・ユニークスキルはSPを消費する事により、その効果を発揮するものがある。
ちなみに特殊スキルとは、SP使用により取得できるスキルリスト内には無いものを指し、一般的にはレアスキルなどと呼ばれる。
取得は困難とされ、先天的に与えられるものが大半とされている。
実際に取得しているスキルを人に話す事は少ないので真実は分かっていない。
そしてユニークスキルについては分かっている事はほとんど無い。
唯一無二という意味合いで付けられるスキルであり、公的に発表されているものは、二つ。
一つに各国王族の中に稀に現れる、スキル:〇〇の王。
二つにお伽話に出てくる勇者が持つとされる、スキル:英雄の路。
それだけだ。
後者に至っては存命の人の中に所持者がいない為、眉唾物とされている。
「そういえば、SPって幾つ位残ってる?」
「まったく使ってないよ。78ポイントかな」
そう言ってコオリはステータスを確認する。
「うん、78ある。どうしようか」
2人して自分のステータス画面と睨めっこだ。
実はコオリは、アルクに言っていない特殊スキルを持っている。
スキル名:技術取得促進。
努力によるスキルの取得速度が常人の数倍になるというものだ。
アルクは鑑定スキルにより看破しているのだが、特に言及する事はなかった。
アルク自身もユニークスキルや鑑定スキルは両親にも話してはいないのだ。
別段隠している訳ではなかったが、話してどうこうなるものではないと放っている。
彼にとってスキルなど日常の付随物にすぎない。
努力の評価や指標には繋がっても、道具は道具と割り切っている。
なのでコオリのSPの使い道についても強い関心は無い。
あえて言えば生存能力の向上に役立てばと考えている位か。
「そうだ。何か耐性スキルでも取ったらどう」
「耐性スキル?」
「ああ、あれって取るのに苦労するだろ。例えば毒耐性取る為に、毒を飲み続けるとか嫌だろ」
「まぁ…確かに…」
「物理耐性とるために殴られ続けるとかもきついしな。と言うかコオリって、M属性じゃないよな」
「M属性ってなに?そんな属性あったかな?」
コオリは純粋な10才児だ。
「M属性ってのは、被虐嗜好を持った人の事を指すんだよ」
「被虐ってなに?アルクって時々難しい言葉使うよねぇ」
「別に難しくないよ。簡単に言えば傷つけられて喜ぶ事だよ」
アルクはこういう事を平気で口にする性格だった。
「喜ばないよ!殴られて喜ぶ人なんているの?!」
「いるよ。軽いか重いかの違いはあるけど、全世界の半分の人はM属性だよ」
暴論だ。
「嘘だよ!おかしいよ!そんなにいるわけないよ!」
「本当だよ。ちなみに残り半分はS属性の人たちだよ」
アルクはポーカーフェイスだった。
「う〜、聞くのが恐いけど……S属性って…何?」
「加虐嗜好の事、つまり傷つけて喜ぶ事だよ」
「こわっ!怖いよ!世界の半分の人がそんなだって信じられないよ!」
コオリは半分泣き顔だ。
「コオリだって魔物倒して喜んでいたじゃないか。きっとS属性なんだよ」
「ちがうよ!人を傷つけて喜ぶなんて絶対ないもん」
「じゃあMなのかなぁ…試してみるか…」
アルクはコオリの頬を痛くないほどに摘んで引っぱりこねる。
「ふぁにふぉ…〃〃〃」
コオリは顔が赤くなり、もじもじし始める。
「うん、ごめん、…コオリはMの人だった」
「えー!!どうしてそうなったの!おかしいよ絶対!」
「いや、今少し喜んでたよね。それにSじゃないならMだよ」
「おかしいよ!よろ…喜んでないよ!私はSとかMとかじゃないよ!」
アルクは満面の笑顔だ。
「ぼくはたぶんSだからMの人と相性がいいと思うんだ」
「………」
「SとかMというのは嗜好の問題であって、変態だとかそういうのじゃないんだよ?」
「………」
コオリは何ともいえない複雑な顔で、どうしたらいいのかおたつき始めた。
アルクはさほど鈍感ではない。
「う〜〜〜」
コオリは唸る。漫画にすれば目がぐるぐるになっている事だろう。
「まぁ、別にどっちでもいいけどね。それより耐性スキルの話だよ」
アルクは発言どおり、若干Sの人だった。
結局話は纏まらず、SPの使い道は保留となった。
現状、困っている事はない。焦る必要はないのだ。
今日も楽しい一日だったと、彼は満面の笑顔で家に帰った。