表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不条理を駆逐する  作者: がるぴん
第2章 村と世界システム
5/12

第05話 レベルとスキル

 

 彼は10才になった。


 近隣の村や所属国の情報は手に入れていた。


 読書きも問題無い。算術に関しては元々備えていた。


 スキルの概要についても粗方把握は完了している。


「母さん行ってきまーす」


「いってらっしゃい」


 世界の文化についても、できる範囲で情報収集は怠っていない。


 彼は畑へ向かう。


 10才にもなると大半の子供は、大人の手伝いを行う。


 この村は比較的裕福な部類にあたり、飢饉に怯えることはない。


 大きな街や王都等と違い貧民集落は存在しない。


 子供が外に出ても安全だと言える。


「手伝いに来ましたー」


 畑の主に声を掛けて、草取りに精を出す。彼の農耕スキルはLV4だ。


 たいした時間もかけず作業は終わる。


 彼は草取りが終了したことを告げて遊びに出かける。


 今日はLV上げの日だ。


 ただし彼のLVではない。コオリの為に準備したようだ。


「コオリいるー」


「あらいらっしゃい、ちょっと待ってね」


 リオが出て来てコオリを呼んでくれる。


「おまたせー」


「じゃあ行くかー」


 コオリとは予め打ち合わせしてあったようで、村はずれに歩いて行く。


 二人のLV上げはこれが初めてではない。


 彼らは以前、村はずれに出るスライム退治をしてLV上げに励んだ事がある。


 スライムは農作物を荒らす害獣とされている。


 本来は魔物の一種に数えられるが、子供でも比較的容易に退治できる事からLVの低い子供たちの格好の的になる。


 彼らも例に漏れずLV上げに勤しんだが、少しハプニングがあった。


 はぐれ迷い込んだマギドッグと呼ばれる犬型の魔物が、彼らの前に現れたのだ。


 強さ自体は通常の犬と大差ない。


 普通の子供にとっては大変な脅威となるが、その頃の二人にとっては丁度よい練習相手といったところだった。


 ただ、アルクはこれを大した事がない等と思っていなかった。


 魔物とはいえ、親もいれば子もいるだろう生物を殺すのだ。


 相手が襲ってくる以上、手加減など命に関わる。


 全力を出し相手と対峙する。


 二人は隠れながら石を投擲し、弱ったところを木刀で仕留めた。


 コオリは興奮してはしゃいでいた。


 アルクは静かに死体を担ぎ村に向かう。


 マギドッグが一匹とは限らない。村への報告が必要だった。


 コオリはまだ興奮冷めやらぬ感じでアルクに絡んでくる。


 アルクはそれに水を指すのを躊躇わなかった。


「奴は立派に生きていた。必死に闘った。勝ったことを誇るのはいいけれど、それは絶対忘れちゃいけないと思う」


 アルクは正直建前のつもりで言っていた。


 彼にとって動物も魔物も変わりないものだった。


 しかし犬もスライムも変わらないとも思っていた。


 スライムを狩っておきながら、犬が駄目だとは話がおかしい。


 ただアルクはコオリに命を奪っている自覚を持たせたかっただけだ。


 それ以来彼女はLV上げをしていなかった。


 久しぶりのLV上げのお誘いにコオリは少し浮かれていた。


 以前の時は何故だか彼に怒られたような気がしていたのだ。


 実際のところ彼は別段怒っていた訳でもないし、その後きつく当たるような事もなかった。


 ただそんな気がしていただけだ。


 彼女は彼の言葉の意味をよく考え、自分なりの答えをだしていた。


 彼女はとても賢かった。


 村はずれに来ると見た事の無い施設が目に入る。


 上下二段、高低差は一メートル程、広さは五メートル四方はあろうかという溝だ。


 上部と下部は前後にずれており小型の滝を思わせる。


 上部に溜めた水を下部に押し流す、堀の深い棚田といった所か。


 上部の淵には止め板が帳ってあり、それを外すと下に流れ出す構造になっている。


「あの中にスライムが一杯入っているから、この紐を引いて倒すんだ」


 アルクはコオリに向かってそう言った。


 コオリは意味がよく分からなかった。


 上部を覗いて見れば、そこには数えきれない程のスライムが蠢いている。


 コオリは目を疑った。これは無いだろうと。


 こんな大量のスライム見た事がない。これが全部畑にでも逃げ出せば大変な事になる。


「ねぇこれなに?どういうこと?」


 アルクは後で説明するから、とにかく紐を引いてスライムを下の溝に流してと言ってくる。


「下に流すとどうなるの?」


 コオリは恐る恐る聞く。


「全部死んじゃうよ」


 答えも恐ろしいものだった。


 この下に何があるんだろう。コオリは考えるのをやめた。


 とにかく紐を引けばスライムは死ぬのだ、彼女は勢いよく紐を引っ張る。


 次の瞬間、止め板が外れ大量のスライムが流れ出す。


 スライムは下の溝に入ると、シュウシュウと音を発して消えていく。


 恐るべき光景だ。後に残るのはドロップアイテムのスライムの核だけ。


 どれだけ時間が経っただろう。


 殆どのスライムが消える中、ー匹の赤いスライムが下の溝の中で生き残っていた。


「行くよコオリ」


 彼は溝に跳び込む。彼女は慌ててそれを追い掛ける。


「こいつは体当たりか体を鞭みたいにして攻撃してくるから、それを避けて木刀を叩きつけて」


 アルクからの説明がとび、彼はそのまま赤いスライムへと飛び掛った。


 コオリも後を追い、夢中で木刀を振るう。


 いつしか赤いスライムは姿を消し、後には赤いガラス玉が落ちていた。



「ねぇどういうこと、説明してよ」


「その前にLV確認してみて」


 コオリは渋々ステータスを確認する。


 そして彼女は目を見張る。確かここに来る前はLV5だった筈だ。


「LV27ってなんでこんなになってるの?」


「なんでって、大量のスライムを倒したからだよ」


「いや、私紐引っぱっただけだよ」


「それが倒したってことだよ」


 彼女には全く理解出来なかった。


 剣で叩いた訳でもなく、魔法で攻撃した訳でもない。


 紐を引っぱるだけでLVが上がる等聞いた事も無い。


 しかしステータスは確かにLV27を示している。


 そして彼はコオリを騙した事などない。


「ねぇ教えてよ、何がどうなってるの?」


 アルクはポツポツと語り出す。


 魔物を倒し得られる経験値の算出方法は簡単だ。


 魔物の周囲に彼らを倒す意思を持って、行動を起こした者にその権利が与えられる。


 その行動がどんなものかは余り関係がない。


 グループ行動した際、回復職の人に経験値が分配されるのはこれが原因だ。


 直接、間接は関係ない。


 ダメージを与える行動をしたのだ、コオリに今日のスライム退治全ての経験値が与えられるのは当然だった。


 その他、用意された施設に関してアルクは何も話さなかった。


 彼はあの施設を使い続ける心算はない。明日にでも解体するつもりだ。


 コオリのLVをある程度上げられたならば事足りた。


 彼は同様の手法で両親のLVも上げるつもりだったが、それは断念していた。


 説明できる気がまったくしなかったからだ。


 施設の造りは簡単だ。


 スライムのポップ位置の土壌に傾斜をつける。


 その下に溝を作り、上部のプールとする。


 増殖用の薬草をプールに入れておく。


 これだけで一週間もすれば、溝一杯のスライムができあがる。


 偶に出る赤くて強いスライムはご愛嬌だ。レアなので殆ど出現しない。


 次に下部の溝に岩塩を敷き詰めて、上部から勝手に落ちない様に止め板を付ける。


 紐を引き板が外れる機構を付ける。


 以上だ。


 岩塩の上に落ちたスライムは、体内の水分を吐き出し勝手に自滅する。


 残るのは核だけだ。


 例えスライムが増えすぎても下に落ちれば死ぬし、止め板が外れても死ぬ。


 危検性はそれほど高くなかった。


 事前の準備も怠らなかった。彼は自ら実験し安全性の確認を行っていた。


 ただこの時、彼はこうも考えていた。他人がこの方法を思い付かない事がおかしいと。


 まぁ出来た事に違いはない。


 彼らは大量のスライムの核と経験値を手に入れ、コオリのLV上げに成功した。



 ちなみに彼のLVは51まで上がっている。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ