第01話 転生とはじめまして
彼を音と苦みが襲う。
「おぎゃー、ぎゃあ、あ〜」
一転、新鮮な空気と光がもたらされる。
「ぎゃー、ぎゃー」
煩いほどの声が部屋に反響する。
だが、この音を煩いと思う者はここにはいない。
精魂尽きた様の女性が満面の笑顔で呼びかける。
涙を流した男が女性の手を握り締めている。
赤子を抱いた老婆が笑顔で女性に歩み寄る。
「「「はじめまして、産まれて来てくれて、ありがとう」」」
産まれおちたその日、彼は確かに祝福された。
産まれ落ちた彼は考える。
苦みから一転、新鮮な空気と溢れんばかりの光がもたらされた。
音は聞こえるが意味をなさない。目を凝らしてもよく見えない。
ロからは意思と関係なく、声が洩れ出る。
『たぶん俺泣いているな』そんなことを思う。
彼は転生者だった。
過去数回の記憶を持っている。
ただ、記憶を持っての転生はこれが初めてだ。
前回は人として生まれ8才で死んだ。
もの心ついた時はマンホールの中で仲間と暮らしていた。
8才の時に人攫いから仲間を庇って連れ去られた。
そこで終わりだ。
前々回は日本人だった。
40才で死んだ。生まれてから死ぬまでろくでもない人生だったと彼は考えている。
それ以外は曖昧だ、人だったかも分からない。
「「「はじめまして、産まれて来てくれて、ありがとう」」」
ぼやけた視界に人が見える。
誰かも分からない、何を言っているかも分からない。
「おぎゃー、あー」
それでもなぜだか彼は理解できた。
彼は生まれて初めて祝福された。
彼の記憶に人から本当に祝福されたものはない。
「ぎゃ〜、ぁー」
産声に混じり、彼は泣いた。