田中伸也の日常
男とはなぜ女子の脱ぎたてのパンツが目の前にあると鼻にあてて嗅ぎたくなるのであろうか。
それがたとえ美しい少女のものでも愛おしい女性のものであっても決していい香りがするとは思えない。
でも、これが良いんじゃないと思えることが愛なのであろうか。
窓から新緑の息吹に満ちた心地よい風が頬を撫でる暖かな午後の教室で、普段はクールにきめている自分がこのような動物的な葛藤にとらわれていることが田中伸也は許せなかった。
伸也は頬杖を突きながらため息をつき隣の女子生徒に目を移した。
彼女は度の強い眼鏡越しに現国の教科書を食い入るように見つめていた。
しかし、それは勉強熱心だからではなく教科書の中に仕込んだ五インチ弱のタブレット端末でボーイズラブなウェブコミックを閲覧していたからである。
その巨躯からズゴックなどとあだ名される彼女は恋愛などとは一番遠い世界にいるわけだが日がな一日漫画を読んで仮想恋愛を楽しみニヤついている姿は異様だった。
伸也はこいつも一応女なんだと思うとぞっとして先ほどの淫蕩な考えを振り払うことができた。
ズゴックはそんな伸也の視線に気づいたのか教科書を閉じ眉間にしわを寄せ「シャっ」と言って威嚇した。