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終章 3

 そこへ、一人の警官が大野綾子に駆け寄って来た。

「外にいた記者の一人がトイレを借りたいと言っていますが」

 警官が早口で言った。

「誰?」

「身分証とパスポートを確認したところ、フィリピン通信の女性記者です」

 大野は素早く考えたが、イランやアフガニスタンとは関係のない国の記者で、しかも女性であることから「徹底的にチェックして、何もなければ仕方ないから通してやって下さい。ただし、トイレが済んだら、直ちに外へ戻ってもらって」と答えた。

 大野がビルの入り口に戻ると、警官が入り口の探知機に彼女を通そうとしているところだった。その時、大野の携帯電話が鳴った。再び、和田からだった。

「今、中へ入ろうとしている女を徹底的に取り調べて下さい」

 和田が言った。

「彼女が何か?」

「不審な女なんです」

 和田がそう話す間に、女性記者は探知機の奥まで入っていた。アラームは鳴らなかった。大野が駆けつけて持ち物検査機も確認したが、爆発物や金属製品はまったく検知されなかった。

「彼女は何も持っていません。ただトイレを借りに来ただけなので、用が済み次第すぐに外へ出します」

 大野が、和田に報告した。

「何も持っていない……」

 電話の向こうで、和田が落胆した声を出した。

「はい」

「トイレですって?」

 和田が訊いた。大野には、和田がなぜ、この女性記者を疑っているかわからなかった。見れば、女の自分から見てもうっとりするほどの美貌の持ち主だった。ただ美しいだけでなく、野生的な魅力もある。すべすべした褐色の肌に、少し潤んだ黒く大きな瞳。ふっくらした唇の横にはホクロがあった。

 婦人警官が二人で、その女のボディチェックをした。そこへ、和田がバスから降りて駆けつけてきた。自分のベルトを外して、持ち物監査機のベルトコンベアに乗せると金属探知機を通り抜けて大野にツカツカと寄ってきた。

「大野さん、いいですか。トイレの中でも彼女を見張っていて下さい。ドアを閉めさせず、片時も目を離さないように」

 大野の耳元で、和田がささやいた。

「そして彼女の動きを逐一、私に報告してください」

 和田が大野の目を見て、真剣な顔つきで言った。

「あの女が何をするのでしょう?」

 大野が和田に訊いた。

「残念ながら、わかりません。ただ、さっき逮捕されたイラン人青年と、あのフィリピン女性には接点があるのです」

「接点?」

「どういう関係か、わかりませんが、二人とも同じような時期に愛知に現れて、しかも示し合わせたように昨夜、一緒に姿を消しました」

 和田が深刻な顔で大野に訴えかけた。確かに不審だと、大野は思った。

「わかりました。私が婦人警官と一緒に、二人で見張ります」

 それから、すぐ近くにいた若い警官から警察無線のイヤホンを借りると、「これを貸します。報告しますから、聞いていて下さい」と和田に渡した。

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