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ロボ物  作者: ウル ボノ
6/9

試験 後

 すいません、遅くなりました。

 まだ、構成に荒さが目立ちますが今の作者の全力です。


 ジオニスの対騎体戦闘試験の開始の鐘が鳴る、少し前。闘技場に立つジオニスと同じく、この闘技場で対騎体戦闘試験を受けていた学生たちは皆、一様に真剣な眼差しを闘技場に向けていた。その学生たちの中には午前の試験中にジオニスの悪口を言っていた者も混じっていたが、皆が皆、真剣に今から闘技場で行う試験に眼を向けていた。


 闘技場に入ってきた白銀の騎体、学生たちが今しがた搭乗した騎体とは、目指す方向性(コンセプト)からしてまったく違うだろう第五世代の装命騎(ヴァン・スクード)。全体的に細く造られた肢体に白銀の装甲を纏い、頭部には二本の角をもつその騎体に学生たちは目を奪われていた。


 騎装士科の学生たちにとって、目の前に今ある騎体、たった一人のために造られ、調整された専用騎を持つ事は騎装士としての一つの夢の形であり、憧れであった。

 その専用騎が目の前にいて、今から試験という形ではあるがその戦いを見られるのだ。ただ、戦う相手があの落ちこぼれのジオニスであるという事に多少の不満を感じはするが、その一挙手一投足を絶対に見逃すまいと、学生たちは観客席から闘技場へ誰一人として視線をずらすことはなかった。


 今から、試験の設定時間である15分間の間。いや、ジオニスがガーンズに倒されるまでの間に現役の騎装士の技を覚え、自身の力にするために。

 闘技場内(なか)観客席(そと)。両方の緊張が高まる中で、開始を告げる三連鐘の音が鳴り響く。

 そして、一つ目の開始の鐘が鳴ると同時に動いたジオニスの取った行動に、学生たちは皆、眼を奪われることになる。



 今までの模擬戦闘や訓練通りならば、今まさに10メートルも無い距離で対峙している2体の騎体たちは、一度、20メートル程度の距離を取り直してから自身の得意とする距離で戦おうとしただろう。 別に試験のルールとしてそう決められている訳ではないのだが、慣例のように行われる『試験開始の直後には距離を取り直す』という行為に学生や教官たち、皆が慣れてしまっている中ではジオニスの行った開始の鐘が鳴ると同時にオートネルの掃射による先制攻撃を仕掛ける、という行為も立派な奇襲になる。


 もちろん、それを見ていた学生たちはジオニスの行為に眉を顰めたが、この奇襲がルール違反にならないことは事前にリゼルが確認済みである。


 だが、そんな奇策が通じるのは相手がジオニスと同じ学生ならばこそ、騎装士としての経験からして差のある、教官たちや、まして、現役の軍の騎装士であるガーンズにそんな奇策など、効くはずがなかった。


 スタッグがオートネルを持った左手を構えた時には、ガーンズは自らが取る選択を決めていた。

(学生君は短気だな、だが、これならどうするよ。)

 ガーンズの乗るヴァン・スクードの取った行動はスタッグがオートネルを構えている左手側を、あえて抜けることだった。これならば、ちょっとした動きでも騎体がブレてしまう。という騎装士としての欠陥を持つジオニスには効果的であった。

 ガーンズの行動に対し、スタッグの左手の操作だけではヴァン・スクードにすぐさま追撃に出ることは出来ず。また、ジオニスが外した模擬弾が地面に当り、土埃と共に赤色の粉をそこら中に撒き散らしたことで視界が狭まっていた事もあり、ジオニスは更に一手、ガーンズへの対応が遅れることになる。

 だが、ガーンズは距離を取る事を優先したのか、そのまま、スタッグの後方へと走り抜けていった。

 これで、互いの意図した事ではないにしろ。スタッグとヴァン・スクードは元の立ち位置を真逆にして、従来の対騎体戦闘試験と同じ形を取る運びになる。

 ただし、ジオニスは奇襲のために掃射したオートネルの残弾数を、半分以上も消費して。


 ジオニスの持つ、オートネルの予備の弾倉はあと一つ、奇襲によるほんの10秒にも満たない攻防は、ジオニスの敗北に終わり。

 更にジオニスを追い詰めるだけの結果に終わった。




 

 一閃、走らせた勢いを殺さずに、スタッグは白銀の騎体にメイスを突きだした。

 しかし、胴体部を狙ったメイスの突きは、たった一歩分、右に動かれただけでいとも簡単に避けられてしまう。

 一瞬、ジオニスは相手をモニターから見失ってしまったが、スタッグの挙動を安定させながら、振り返りざまに白銀の騎体が抜けていった場所へオートネルを向ける。

 モニターに映ったのはオートネルの射線を避けるように、低い体勢で突っ込んでくる白銀の騎体。ガーンズの乗る、第五世代装命騎 ヴァン・スクードの姿だった。


 試験開始から既に8分以上。蒼いスタッグは白銀の騎体に向けて、無理やりな体勢のまま。再度、メイスを振りかざす。

 腰溜めに横から振られたメイスは、やはり、ヴァン・スクードには届かない。

 これで幾度目かの攻撃も後数10センチというところで、ガーンズの乗るヴァン・スクードには当らなかった。

 ヴァン・スクードの避ける姿には、余計な動作など微塵たりとも見当たらない。ガーンズはスタッグの動きを全て見切った上で、態とギリギリで避けているだろう事が伺える。


 遊ばれている、ジオニスはそう感じていた。

 左手を向け、オートネルの狙いをつける時にはヴァン・スクードはその場から既に離れており、最初の奇襲からオートネルの引き金はいまだ一度も引かれていない。かといって、ジオニスが近づこうとすればどこかへ逃げるわけでもなく、スタッグの攻撃を待ち、敢えて、ギリギリで回避するか、右手に構えた長剣でメイスの軌道をずらすか、先ほどからずっとこの繰り返しだった。


 攻撃を外したジオニスはスタッグの体勢を崩してしまい、反射的にリカバリーに動くが本来ならこの隙を狙って襲ってくるだろう衝撃は、こない。

 スタッグの体勢を直し、振り向くと。そこには左手を鞘に置き、右手に持った長剣を下段に構える、白銀の騎体。すでに小銃は後腰部に吊るされている。

 ジオニスがリカバリーに掛かった時間は約2秒半。

 その間、ジオニスにどれだけ隙があろうとも、ガーンズは一切の攻撃をしてこないのだから、ジオニスがそう考えるのも仕方がなかった。


 ならば、いつからだろう。

 ジオニスの考えは、深く深く悪いほうへと沈んでいく。


 始めは、どうすれば勝てるのかを考えて。次第に時間切れまで生き残ることに思考は移っていき。そして今。

 何故、ガーンズと戦うことになったのか、その理由は、と考えていた。


 ガーンズは試験の前に偶然が重なったような事を言っていたが、最初の奇襲への対応は。ジオニスの攻撃を、ブレがあるために一撃一撃が安定しないメイスでの攻撃をギリギリでかわしている事は。どちらもジオニスの欠点を事前に知っていなければできないはずだと。

 先の奇襲でも、オートネルを構える左手側よりも右手側へ抜けたほうが、本当なら、避けやすかった筈だ。

 メイスでの攻撃も、確かに学生と玄人の腕の差があれば、楽に避けられただろうし、ギリギリでかわす事も狙ってできただろう。

 普通の学生なら。

 だが、どちらもジオニスには当てはまらない。

 奇襲時に左手側を敢えて抜いたのも、ジオニスでは不意の修正が効かない事や、すぐにスタッグの体勢を入れ替える事が出来ないと知って、無駄弾を撃たせるためにオートネルに向かっていったのだろう。

 それでも、ジオニスは当らないと分かっていても。ガーンズの接近を防ぐためには無駄弾を撃つしかなかった。ガーンズはそのことを予測したうえで行動したのだろう。

 これが右手側ならば、前に出る足を緩めずに少し走り、距離をとって、振り返る事で多少はブレが起きたとしても、無駄弾の消費だけは少なく抑えられたはずだ。

 メイスの攻撃を避けるのもブレのために安定しない攻撃をギリギリで避ける事は、例え、かなりの腕の差があっても難しいだろう。それ以前にジオニスのことを知らなければ挙動の安定しない騎体の攻撃を接近して避けること事態。普通なら、そんな危険な選択自体を選ぶことはないはずだ。

 だが、ジオニスの事を注意深く視ていたというのならば、その技量の差を考えれば、難易度は格段と下がるだろう。

 

 なら、この試験でガーンズと戦っている事自体が、学園側で仕組んだ事なのだろうか。

 なら、ガーンズと旧校舎へ続く道で出会ったのも、偶然ではなかったのだろうか。

 なら、すでに勝つために練った策を破られたジオニスに、勝ち目があるのか…… 。


 ただの思い込み。それでも一度でも疑ってしまえば、全てが疑わしく見えてくる

 その迷いは、ジオニスの思考を鈍らせていく。そして、思考が鈍る事はそのまま思念フィードバックにも影響を及ぼし、スタッグの動きをも鈍くしていった。

 鈍くなる思考。すでに右手に持つメイスには碌に力が入っていない。オートネルにいたってはヴァン・スクードに対して、その銃口を向けられる事すらない。

 横振りに、力なく振られたメイスは。やはり、後ろに一歩下がられただけで当たる事はない。

 今の攻防で何度目の交錯だったろうか。もはや、スタッグの動きには、最初にあった勢いは失われていた。


 だからこそ、だろうか。

 徐々に動きの悪くなる騎体に、切れの無くなっていく操縦に。

 そして、どうしようもならないほどに見せ付けられる。ガーンズと自分との、力の差に。

 ジオニスは打ちのめされていく。身体ではなく、 心が。

 試験の開始直後には、煌々と操縦席を照らしていたはずのケーブルからの薄く青い光も。今では、モニターに映る映像の光にすら負けるほど、弱弱しくなっている。


 最後まで、足掻くと決めていた。勝てなくとも、最善を尽くそうと決めていた。それでも、ここまで何も出来ないとは思っていなかった。

(こんなはずじゃないんだ、こんなはずじゃ…… 。)

 心が弱っていく。本来なら、15分程度なら全力で戦っても問題なくスタッグを動かせるはずのジオニスの心には、もう、目の前の敵へと立ち向かう力など、無くなってしまっていた。

 



 ジオニスの動きに不満があったのは、なにもジオニス本人だけでは無かった。

 自身の試験を急ぎ終わらせて、その足で闘技場に戻ってきたリゼルはジオニスの試験相手を聞いて、驚いていた。


 相手は現役の騎装士であり、搭乗する騎体は最新鋭の装命騎。

 目前に映るのは、対峙する2体の騎体。

 蒼いスタッグの動きにはすでに精彩さは無く、焦りや疲労が見てとれる。反対に暗くなってきた闘技場のなか、白銀に映える騎体の動きに一切の乱れは見えない。


 だからこそ、ジオニスは焦っているのだろう。

 いくら攻撃しても、全て簡単にあしらわれ続けてしまう。傍から見れば、格上のガーンズが格下のジオニスで遊んでいるように見えるかもしれない。

 その想いは、今も必死に戦うジオニスの方が強く受けているだろう。


 でも、そうじゃない。

「違うだろう、ジオニス。そうじゃないだろう。」

 この試験は勝つためのものではない。もし、相手に勝つ事が目的ならば、ジオニスは試験が開始して3分もせずに負けていただろうから。

 そう、この試験の目的は勝つことではないのだ。本来の目的は、今の実力を教官たちに見せるためにあるのだ。

 意図するモノを変えれば、ガーンズの動きの意味が解るはずなのに。

「気付いてくれよ。ジオニス…… 。」

 友の心配する声は、ジオニスには聞こえない。


だが、リゼルの口から漏れた言葉が消え行くとともに、蒼いスタッグの、ジオニスの動きが変わった。

 今までの力の抜けた動きとは違う、荒々しい動きへと。また、騎体が一瞬、足を崩したが少しのブレなど気にせずに果敢に攻めていくその姿からは、先ほどまでの弱弱しい印象は受けられない。そして、その変化に呼応するかの如く、白銀の騎体はこの試験で初めて長剣を振るった。




 ジオニスの動きに不満を抱く人物はもう1人いた。

 この試験が開始してから、すでに10分が過ぎた、幾度と無く隙を見せてはいるのだが、その隙に対し、目の前にいる学生は同じ事しかしなかった、と。

 少なくとも、試験開始の鐘と同時に攻撃を仕掛けてきた時の気迫は、もう目の前にいる学生には無い。自分の威圧を跳ね除けての奇策。成功はしなかったがそのときはウォルフも嬉しかったのだ。

 自分の目は正しかったのだと。

 そして、今、見せているこの体たらく。初めの気迫は内に篭り、時間が経つごとに弱弱しくなっていった。今や、かろうじて騎体を動かせているのでは、と疑うほどに。

 だが、まだ全ては見せていないはずだ。

 少なくとも、まだ残っている力があるはずなのだ、それを出さずに諦めるような楽な選択を。諦めるという楽な逃げ道を選ばせる気など、ウォルフにはもうとう無かった。


 念声ポータルをスタッグへと、繋げ、

「坊主、どうしたっ。」

 ウォルフはジオニスへと、吼える。

「最初の気迫はどうしたっ。それとも、勝てない相手からは逃げるかっ。諦めるかっ。」


 その感情は不甲斐なさをみせるジオニスへの怒り。今、敵である自分が言うのは可笑しいのかもしれないと思っても、それでも、ウォルフは止まることが出来ない。

「そうやって、逃げれば楽だろうな。だが、それでどうする。

 確かに、たかが試験だ。それでもお前は、たかが試験のために全力でやってきたんだろうが。ならば、武器を取れ、(おれ)を見ろ。倒れるならば、前に向かって倒れてみせろ。」

 怒鳴るような声がジオニスの騎体に響く、その声は不意に小さくなっていった。まるで、ジオニスに期待する何かを伝えようとするように。

「坊主、今できる事は何だ。時間切れまで、何も考えずにただ戦うだけか? それとも、俺に勝つために策を練ることか? 分からないのか、思いつかないのか。なら、俺から言えるのは一つだけだ。」


 ウォルフは告げる。

 その答えは簡単なこと。誰にでも出来て、だからこそ難しいことだった。

「全力でやれ。今できる事で、坊主が後悔しなくてすむ方法の一つだ。」

 ここまでは伝えたのだ。これでジオニスに何も変わりが無ければ、ここで決着をつけるつもりだった。

 だが、蒼いスタッグは構えていたメイスを下げてしまった。

(駄目か…… )

 ジオニスには戦う気力は残ってはいないのか、ならこれで決めてしまおう。

 そう判断を下し、ウォルフは下げていた長剣を正眼に構える。

 その時、ウォルフの目の前にいる蒼いスタッグの立つ姿には、どこかしかに違和感があった。

 先ほどまでと同じく、両腕は下げたままの姿勢。しかし、この違和感は。

 少し見ただけではすぐには分からなかったが、スタッグの間接部分からは薄い青色の光が漏れていた。

 途端、目の前にいたスタッグの足元が、地面が爆ぜた。

 今までとは違う。荒々しい動きで蒼いスタッグは駆けてくる。もはや、騎体のブレなど気にしていないのだろうか。例え、倒れそうになっても、メイスを振った勢いに腕を取られても、ジオニスはウォルフに向かってくる。

 その動きに精細さはない。だが、挙動のブレを気にしすぎるために、どこかで抑えていただろう勢いが、気迫が今はある。


「さあ、来い。」

 すでに念声ポータルは切られている。この声はジオニスには届いてはいない。

 再度、駆けてくる蒼いスタッグ。そのメイスは初めてヴァン・スクードを捉え。頭部を狙って振るわれたメイスを防ぐため、ウォルフはこの試験で初めて長剣を振るう。




 今、俺は何をしているんだ。


 幾度も避けられるメイスを、諦めずにただ振り続けた。目の前にいる白銀の騎体に対して。何度、避けられてもメイスを振るう。でも、当たる事は無い。

 いくら振り続けても、どうせ、当たる事なんてない。

 それでも、諦めたくないから。すでに諦めようとしていることを悟られたくないから、がむしゃらにメイスを振った。


 でも。

(今、俺は何をしているんだろうか…… )


 そんな時だった、ザザッとノイズのような音が念声ポータルから聞こえた。

「坊主、どうしたっ。」

 不意にスタッグの中に響く、ガーンズの怒鳴り声。

「最初の気迫はどうしたっ。それとも、勝てない相手からは逃げるかっ。諦めるかっ。」


 その通りだった。逃げたかったのだ。何をしても通用しないガーンズから。ジオニスは最初の奇襲が失敗した時点で、本当はすでに勝つことを諦めていたのだから。

 念声ポータルから、聞こえる言葉はジオニスを責める言葉ばかり。

 聞きたくなんてなかった、誰かからの俺を責める言葉なんて。嘲りや嘲笑なんて。だからこそ、今までは耳を閉じて、目を背けてきた。

 どれだけの時間を掛けても、騎装士としての腕は、技術は一向に向上しない。皆に置いていかれるなか、俺がやっとの思いで1歩進めば、皆はもう10歩は先にいる。   

 たどり着けはしない。皆と同じ、場所になんて。

 隠し続けてきた嫉妬や不満。何故、俺なんだという理不尽な怒り。全てを隠してジオニスはここに立ってきた。

 でも。一度、堰を切ってしまったものを止めることは出来なかった。

 妬み。怒り。羨み。嫉妬。羨望。諦め。悲観。後悔。そして、一筋の希望とその後の絶望……

 たったの一秒が長く感じた。今まで掛けられた言葉が頭を過ぎった。


 不意にガーンズの声が聞こえなくなっていた。いや、声が小さくなっただけか。


――俺から言えるのは一つだけだ。」

 後の言葉は、不思議とジオニスの心に入っていく。

「全力でやれ。今できる事で、坊主が後悔しなくてすむ方法の一つだ。」


 俺はどれだけの後悔をしてきただろう。

 自分を隠して、周りにいた友達に嘘をついて。1人になって、笑われて蔑まれて。それでも、誰かが俺を助けようとしてくれるのが嬉しくて、それに縋った。

 思い出すだけでも後悔したことばかり。


 力が入らなくなったスタッグの右腕部は、すでにメイスを下げていた。だけど、ほんの少しの命力を注いだだけで。スタッグは答えてくれた。

 まだ、大丈夫だ、と。戦える、と。

 だから、今は後悔しないために戦おう。後、ほんの少しぐらいなら頑張れるから。

 ジオニスはスタッグに全力で命力を注ぐ。

 操縦席を照らす青い光。ケーブルから漏れた、操縦席の中を満たしていく、その光は今までとは違う。すでにジオニスを抑える枷はない。

 失敗した作戦も、ブレを少しでも抑えるために自らに科した制限も、今のジオニスを抑える事は出来ない。


(イメージしろ。目の前の敵に肉薄する瞬間を。)


 足動盤を最奥まで踏み込み、敵へと跳ぶ。

 瞬間、地面の爆ぜる音とともに、目の前には試験が始まって、初めて攻撃の姿勢を見せた、ヴァン・スクードがいた。

 地面に足が着くと同時に、躓くかのように足を止めた蒼いスタッグ。

(関係あるかっ、今度こそブチ当てる。)

 加速された勢いを加え、真っすぐに振り下ろされたメイスを、避ける事は出来ないと判断したのか、この試験で初めて白銀の騎体は長剣を振るい、メイスを弾いた。




 観客席から見ていた学生たちは皆、呆然としていた。その視線は闘技場内で戦う2体の装命騎に釘付けにされている。


 蒼いスタッグが右肩を狙い振るったメイスを、ヴァン・スクードは長剣をメイスの先端部に添わせることで受け流す。

 そのまま、長剣を添わせることで、メイスを握る指を切り落とそうとするが寸でのところで、ジオニスは右手に持つメイスをオートネルで叩く事で回避した。


 ジオニスは距離を取るためにオートネルを掃射しながらも銃口をガーンズに向けて、後ろへと跳躍。しかし、至近距離で発砲したにも関わらずヴァン・スクードの装甲には模擬弾の赤い汚れはついてはいない。

 2体の立つ位置は。距離にすれば、20メートル以上。

 その距離を詰めるために、2体の騎体は同時に自らの望む敵へと走り出す。

 だが、接敵まで10メートルを切った時。

 蒼いスタッグは不意に体勢を崩した。

 何時の間にか、ヴァン・スクードの左手には小銃が握られており、その狙いはスタッグの胴体へと付けられていたからだろう。


(くそったれ、間に合うか。)

 今まで、使われていない事でジオニスの頭の中からは小銃のことが完全に抜け落ちていた。ダメージを気にせずに左手を楯に近寄ろうかと思ったが、すでにスタッグはヴァン・スクードの右手側へと跳ぼうとし、勢いをそのままに前のめりに体勢を崩してしまった。恐らくは思念フィードバックがジオニスの恐怖を拾い、スタッグが勝手に小銃のない左側へと跳ぼうとしたのだのだろう。

 しかし、そこには白銀の騎体が獲物が掛かるのを待っていたかのように長剣を肩に抱えていた。

 袈裟切りに一閃。轟ッと音を上げ、振られるは長剣。

 だが、時には何が幸いするかは分からない。スタッグは体勢を崩していた事で長剣の一撃をその体勢のまま、通り過ぎていくことが出来た。


 ジオニスは振り返りざまに、全てのブレを自分の把握できる範囲に収めるため。敢えて、右足を大きく踏み込む。

 大きく縦に揺れるスタッグ。敵へと狙いを付けたオートネルも揺れてはいるがそのまま、掃射した。


 カチッ、という音が闘技場内に小さく響いた。


 ガーンズが完全に背中を見せていた絶好の機会は、オートネルの弾切れという結果に終わってしまう。

 切り返して、体勢を低くして迫るヴァン・スクード。両手の武器を下げたまま、こちらに迫る脅威にジオニスは、

(弾倉を換える余裕は無いんだ。それなら、こんなもんは。)

 オートネルを全力で敵へと投げつけた。


 鐘を鳴らす音が、低い音が闘技場に響いた。

 闘技場に鐘が鳴る。それは試験の終了まで後1分を知らせる為の一連鐘の音。

 試験の残り時間は後、1分。

 しかし、その鐘は試験の終わりを告げる三連鐘と同じ意味をもっていた。


 不意にジオニスへと念声ポータルを通じ、ガーンズから通信が入った。

「よくやったな、坊主。」

 その声には先ほどまでの険しさは無く、どこまでも楽しそうにガーンズは告げる。

「喝を入れてやってよかったよ。まさか、坊主がここまで戦え(やれ)るとは思わなかった。この一戦、本当に楽しかったよ。」

 しみじみと語る言葉には、ガーンズの本音が混じっているのだろう。その一言一言には、ジオニスに届く優しさが感じられた。だから、ジオニスもそれに答えた。

「俺も楽しかったです。最後には今が試験中だということを忘れてしまっていました。」

 だが、ガーンズは最後ではないとジオニスに言った。

「そうか。坊主はよくやった。だから、この俺にあそこまで意地を魅せた坊主にはご褒美をやろう。

 構えろよ、坊主。 こいつの、俺とヴァン・スクードの本気を見せてやる。」


 準備は出来たとばかりに長剣を両手に持ち替える白銀の騎体。それを正面から迎えるスタッグはジオニスの無茶な操縦のせいで、いたる所から悲鳴をあげている。

 だが、それでもジオニスは。

「分かりました、その本気を俺も受けてたちます。」

 所々、歪みの目立つメイスを両手で構えるスタッグ。


 対峙した2体の装命騎は同時に前に出る、2体の交錯は一瞬。

 それまでの動きとはまったく違う、本気のガーンズの一撃。

 モニターに映る、白銀の騎体はジオニスを置き去りにして動いているかのように、スタッグの動きがまるでスローモーションになったかのように感じた。

 その一撃を、どうにか逸らそうとジオニスも動いたが、結果はすぐに出る。


 闘技場に見えるのは、地面に叩きつけられた、半ばから折れたメイスと、

 胸部装甲に長剣を突きつけられて、地面に膝をついた。蒼いスタッグが、そこにいた。

 



 一拍の間を置いて、闘技場には終了を知らせる三連鐘が鳴り響く。

 ジオニスにだけ、聞こえるようにガーンズは勝利を告げる。

「…… 、俺の勝ちだ、坊主。」

 それに対して、ジオニスは、

「はい。

 ありがとうございました、ガーンズさん。」


 一瞬の間を置いたガーンズとそれに答える、ジオニス。

 今のジオニスには負けた悔しさも、これからの事を考えての悲観もない。

 唯、ジオニスの心には力を出し切った者のみが感じる事のできる、達成感に満たされていた。

 


 やっと、まともに戦闘シーンが書けました。

 今の作者ではこれが限界ですが、これからも精進を重ねます。

 そして、いつかは木Men's豆腐に!!

 この作品を読んでくださった方たちの、ちょっとした暇つぶしになれれば嬉しいです。

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