--prologue 2--
「No.928、行ってきます。」
無機質な空間に言葉を残し、少女はそこから飛び降りた。
自殺か?いや、そうではない。
飛び降りた雲のすぐ下には消えそうな白い道があった。
陽炎のようにゆらりと揺れている道に足をつけた少女は前方を見やる。
そこには大きな人口の鳥...すなわちジャンボジェット機が飛んでいた。
そう、この白い道は「飛行機雲」なのだ。
青い空と緑の地面に挟まれた白い道を少女はまっすぐに駆けてゆき、
そして...消えた。
「あぁ、今日はこの子なのね...」
少女が現れた先は小さな病院だった。
小学4年生くらいの男の子が白いベッドに寝かされ、
点滴やら包帯やらでごちゃごちゃと飾り立てられている。
そして、その男の子にかぶさるように、姉らしき人物がなき疲れた顔で眠っていた。
(ごめんなさい...)
いつも人が亡くなる場面に立ち会うときには心がきりりと痛む。
(私は奪いたいわけじゃないの...ごめん、ごめんね......)
けれど、仕事は仕事。
痛む気持ちを抑えつつ、少女は仕事に取り掛かる。
まずはマニュアルを出し、身元確認。
『鈴木真琴。9歳、小学四年生。交通事故により意識不明。19:36他界。』
次に現在時刻の確認......19:35。
(時間もおしてるし、じゃぁ...)
コートの中、首から下げていた空色のオカリナを取り出し、吹き始める。
優しくやわらかで、きらきらと輝くような旋律....
それは、ニンゲンには見えない金の糸となり、男の子の胸の上に渦巻き始めた。
くる、くるり........と何度か回った後、男の子の中に吸い込まれるように消えてゆく......
と、男の子の胸部が内側からあわく光り、蛍のように輝く丸い物が現れた。
そう、これが「命」といわれるもの。
少女はそれを大事そうに手で包むと、肩からかけていたショルダーバッグにそっと入れた。
光りがバッグの中に消え、ふたが閉じられた時、ちょうど壁にかけられた時計が19:36を指した。
「ぴ------------------------------」
無常にも機械の音が心臓が止まったのを知らせる。
その音を背中に聞きながら、少女はドアをすり抜けていった。
少女の目から一筋の涙が流れたのは誰も知らない......