王子に婚約破棄されたので清々していたら王太子妃になりました──なんで?
お楽しみいただけましたら幸いです。
二人の王子がそれぞれの婚約者に告げた。
「アイリーン、お前を王太子妃にすることはできない。私は聖女マリンを選ぶ。王太子妃に相応しいのはマリンだ。そして、私の愛の全てもマリンへとすでに捧げた。お前との婚約は破棄する」
「ミランダ。私もマリンを選ぶ。孤独に耐えながらも気丈に過ごす姿は王太子妃に相応しい。私の唯一、私の運命。私の心はすでにマリンのもの。ミランダとの婚約は破棄する」
王太子妃発表のパーティーでの事だった。
第一王子キラルドの婚約者である私、アイリーン・シュナイディはその光景を、呆然と──ではなく、沸き立つ思いで見つめた。
国中がお祭のように賑う中、広場では新聞売りの少年の周りに人だかりができていた。
「ようやく王太子妃が決まりましたよ! 今回は前代未聞の決定劇っ! 詳細はこちらをご覧ください! はい、どうぞ」
「こっちにもくれ」
「こっちにもおくれ」
「はいはい、お待ちください」
飛ぶように売れる新聞を少年は嬉しそうに配っている。
長く不在だった王太子妃。
サージェスト国は女神の加護を受けた国。女神は愛を好み、女性を守護する。
この国での王太子妃は大変重要な存在で、それが誰になるのか国民の一番の関心事だ。
街が活気付く前日、王城では王太子妃決定のパーティが開かれた。
煌びやかに飾り付けられた会場に、豪奢な衣装を着た人々。
国中の貴族が集まる会場では今か今かと王太子妃の採択を待っている。
現在王位継承権を持つ王子は二人。
会場には二人の王子と婚約者が揃っている。
今までは王子と婚約者が並んでいたのだが、今回は別々の配置になっており、さらに三人目の女性が立っていた。
第一王子キラルドと、婚約者アイリーン・シュナイディ公爵令嬢
第二王子タリアードと、婚約者ミランダ・アイリルフール侯爵令嬢
そして、数百年ぶりに現れた聖女、マリン・イグノイ男爵令嬢だ。
周囲はどちらが王太子妃に選ばれるのか皆、固唾を飲んで見守っている。
そんな中、アイリーンは一人動揺していた。
(あれ、この配置……見たことある)
最初は既視感だった。
それからグラスのワインが溢れるように記憶が湧き出してくる。
日本で生まれた前世の記憶。
子供から学生を経て社会人へ。そして、三十五歳まで。
そして──
(そうだ、これゲームだ。私、このゲームやったことある)
前世でプレイした乙女ゲーム。その最後、婚約破棄が行われる最も盛り上がるシーンだ。
(待って悪役令嬢じゃん私。ということは今まで私がやってたことって全部フラグ行動じゃん。やばい)
淑女の笑みを浮かべたまま、内心かなり焦る。
今までマリンに対し、かなりキツい態度をとっていた。
男爵令嬢という立場を軽んじ、聖女として認められても上位貴族だとは認めなかった。
だって、作法は壊滅的、どこの派閥からも嫌われ、令息の爵位を上げながら渡り歩く。聖女になってからは王族とも逢瀬を重ねているという。要するに問題児だ。
王の入場の声が高らかに響いた。
サァっと全員が礼を取る。
「面をあげよ」
王の渋い声に顔を上げ、目を見張る。
王、御年三十八才。若々しさと落ち着きを兼ね備えた壮年の威厳ある姿は王に相応しく、生やした顎の髭すら自信に満ちている。
(要するにかっこいい!)
「王位継承権を持つ王子は二名。第一王子キラルド殿下、第二王子タリアード王子。婚約者に愛の言葉と共に求婚の申し込みを行ってください」
王に見惚れている間に話は進んでいたらしい。
女神の採択を受ける儀式がはじまっていた。
(プロポーズが始まる。ここからゲームと同じ流れになるはず。ワクワク)
先に行うのはキラルド。
(あれ? 王子ってこんな感じだったかな? いや、王子は何も変わっていないんだけど……)
王子は二十歳。アイリーンよりも二つ年上だ。
(王子、こんな子供だった……? まだ陛下の方が好み)
「アイリーン、お前を王太子妃にすることはできない。私は聖女マリンを選ぶ。王太子妃に相応しいのはマリンだ。そして、私の愛の全てもマリンへとすでに捧げた。お前との婚約は破棄する」
周囲が騒めくが陛下を含め、口出しはして来ない。
(よしっ! 第一王子は攻略対象っ! ゲームだとここでアイリーンがマリンを罵倒する。でも、今の私はそんな事しない)
「承知しました。婚約破棄を受け入れます。女神サージャ様の御前にてキラルド殿下はマリン様をお選びになった。わたくしは、お二人の幸福を願います」
「え?」
マリンが、驚きの声をあげる。
「アイリーン、君ならそう言ってくれると思っていたよ。ありがとう」
反対にキラルドは感激の声をあげる。
続いて、第二王子の番だ。
「ミランダ。私もマリンを選ぶ。孤独に耐えながらも気丈に過ごす姿は王太子妃に相応しい。私の唯一、私の運命。私の心はすでにマリンのもの。ミランダとの婚約は破棄する」
(あー、ハーレムエンドだこれ。プレイした時も思ったけど王子二人が一人の女性にって、この国マジで大丈夫?)
「そっ、そんなの承服できません!」
ミランダはゲーム通り、反論した。
しかし、この場で反論しても女神サージャの前で行ったことは撤回出来ない。何を言ったところで覆ることはない。
(と、割り切れるのはキラルドへの気持ちが今の私にないからかな。ミランダはタリアードが好きだったのかな。だったら辛いな)
勝手にしんみりしていると、祭壇に動きがあった。
女神の意志を示すように、祭壇の羽ペンがサラサラと勝手に動く。
「女神サージャの神託を読み上げます。王太子妃はアイリーン・シュナイディ公爵令嬢とする。マリン・イグノイは聖女の力を剥奪する」
「は? え?」
「そんな……」
「え? なんで? 私聖女じゃなくなるの?」
(え? 王太子妃、わたし……? なんでぇ?)
天地がひっくり返ったような大騒ぎの中、王が立ち上がると、王笏を床に打ちつけ場を落ち着けさせる。
「女神サージャの神託は下りた。王子二名は王位継承権を剥奪し、マリンは聖女の地位を剥奪、男爵令嬢に戻す。王太子妃はアイリーン・シュナイディ公爵令嬢、王太子は今後アイリーン嬢と協議し決定するものとする」
「なぜですか、父上。兄上か私のどちらかが王太子になるのではないのですか? 我々が……私が王太子になれない……なれないの……ですか? なぜ……」
「陛下、我々以外に誰が王になれると言うのですか? 王子は二人しかおりません。我々のどちらかがアイリーンと、いや、婚約者である私が婚姻をすれば……それを望むよな? アイリーン」
(この人、ここまで身勝手だったかしら?)
女神の神託が想定外過ぎて驚いていたが、キラルドの勝手な言い分に呆れる。
「キラルド殿下、殿下は女神サージャ様の前でマリンさんをお選びになり、婚約破棄を宣言され、わたくしはそれを了承いたしました。この婚約は無効であることはお分かりになられますよね?」
「だ、だが、王太子は私、私が王太子妃を選ぶべきだ!」
「殿下は王子であって王太子ではありませんよ?」
キラルドがグッと唇を噛む。
「そもそも、王太子妃は女神サージャ様がお決めになるのであって殿下ではありません。婚約破棄をした時点で殿下方には王太子になる資格は無かったのではないですか?」
「違うんだ、マリンが自分は聖女だから王太子妃には自分が選ばれると言うから婚約破棄をしたのだ。我々は騙された」
皆の視線がマリンに集中する。
「だって、ゲームではそうだったし。そ、そうだ、アイリーン、あんたがイレギュラーなことするからこんなことに」
(あぁ、聖女の地位がもうないただの男爵令嬢なのに、マリンやばいな)
チラッと公爵である父に視線をやると、青筋が浮かんでいる。
「申し上げます」
神殿関係者が声を上げる。
「元々聖女様には王太子妃になる資格はありません。これは、経典にも記載されております」
(そんな設定あったの!? 知らなかった! )
「そんな……」
王子二人とマリンがその場にへなへなと座り込む。
(記憶があやふやだけど婚約破棄はあったけど、女神様の採択の結果って出たっけ? ゲームって言ってたしマリンも転生者なんだろうけど、お気の毒さま)
「そもそも、愛の女神サージャが王子二人と不実な関係を持つマリンを王太子妃に選ぶはずがないであろう。聖女の地位を剥奪されたのも当然だ。王子と男爵令嬢を退室させろ」
陛下の言葉に納得する。
(不敬だけれど、女神様がまともで本当に良かった)
三人が騎士によって引きずられるように連れ出されていった。
「さて、アイリーン、ミランダすまなかったな。アレらの父としてお詫びする」
「そんなっ、畏れ多いことでございます」
王と王妃、加えて王弟までもが頭を下げて、ミランダと二人慌てふためく。
(王族なのに誠意ある対応をしてくれるところ、好感度爆上がり)
「それでだ、アイリーン。若い其方には酷かも知れぬが、今王家の血を引く者は王弟、サジテールしかおらぬ。アイリーンが承諾してくれるならば、サジテールを婚約者にしたいと考えておるがどうだろうか」
「へ?」
視線をサジテールに移す。
王弟は三十五歳。前世の年齢と同じ年だが、同じとは思えないほどの美丈夫だ。
(前世では絶対出会えないレベルの超絶イケメン。しかも、めちゃくちゃ好み)
流れるような動きで、優雅にサジテールがこちらに歩いてくる。
遠くで見ても顔が良かったが、近くで見るとエフェクトでもかかっているのか煌めいて見える。
「アイリーン嬢、歳が離れ過ぎていて不満に思うかもしれない。でも、二度と悲しませないと誓う。私との婚約を考えてはもらえないだろうか」
(むしろ、魅力的なんですけどー!)
理想を超えた美丈夫が、目の前で片膝をついている。
こんなことってあるだろうか。
火が出そうなほど顔が熱い。
「えっと、ま……前向きに検討したく、存じます」
これが今言える限界だった。
(この顔面に慣れられるかな、私……)
「ありがとう」
手を取られ、指先に触れるだけのキスをされ、色気たっぷりの上目遣いで見られて私は耐えきれずに、キュウ〜と倒れた。
意識が戻った時、サジテールに抱きかかえられていた。
視界いっぱいにイケメンが映り、甘く微笑んでいる。
「わあ、かっこいい」
「顔は合格みたいだね」
ポッと顔が熱くなる。
「サジテール様は婚約者がこんな子供で嫌ではありませんか?」
(中身は三十五歳だけど)
「私は君がこの十年、王子妃教育を受けてきたのをずっと見てきた。君の努力してきたその姿を子供とは思わない。自由気ままに生きてきた私には眩しいくらいだ。君は素敵なレディだよ」
手を取って口元に持っていく。
「私の方こそ、十七歳も年上ですまないね」
困ったように言う姿がなんだか可愛くて笑ってしまう。
「年齢のことは気になりません」
「そう? じゃあこれから、口説いていくから覚悟してて」
手の甲に口付けたままウィンクを返されて血が吹き出しそうな鼻を押さえた。
(これ、前世より全然いいエンドじゃないですか)
【毎日更新・連載中】
泣けるハッピーエンドが読みたい方へ。
不治の病を宣告された悪役令嬢が、愛する王子に嫌われることを選んだ──その理由とは。王子は真実を知り、彼女を救うために奔走します。シリアスだけど最後は絶対幸せになれる、涙の純愛物語です。
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【完結済み・短編】
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