崩壊
砂煙が舞い上がる
“剣撃の鉄槌”が放たれた直後、視界は曇り、巨漢の姿は見えない。
・・・仕留めたのか?!
だが油断は禁物だ。奴の死体を確認できない以上、安心してはならない。
幸いにも、私の愛すべきシンルーラたちが、急ぎこちらへと舞い戻ってきていた。
後は・・彼らシンルーラたちに任せるのがベストであろう。
ラトナは我が身の安全を考え、一歩後退し・・"バベルの巨塔"内に入り込もうとしたその瞬間・・・
彼女は・・ある種の衝撃を感じ、そして自らの目を疑う。
自分の腹部に・・突き刺さっていたのだ。
あの巨漢、レイガンの大剣が・・・
しかもその刃は、ラトナの身体を貫き通し、背後の壁にまで達していた。
小さな身体に大穴を開けられ、まるで磔、いや! 昆虫針のように・・・塔の壁に縫い付けられた!
身動きひとつ取れない。
「嘘だろ!? うっ・・まさか・・やられた!?」
そう、レイガンは・・ラトナの放った“剣撃の鉄槌”をまるで風を裂くようにすり抜けていき・・
そして次の瞬間、大剣を手にした彼は、迷いなくそれを標的へと投擲する。
しかもラトナの腕輪に備えられていた魔導障壁すら貫通し、彼女の腹を正確に撃ち抜いたのだ。
「あ、あの大剣に・・奴自身の生命力と魔導力が練り込まれていたのか! ゆえに尋常ならざる威力、だが、そ・・その代償に、奴の命は・・す、全てが無にいたる」
腹部から溢れ出す血が、地面を赤く染めていく。 視界が滲み、霞んでいく中・・ラトナは見た。
全てを出し切った奴の・・レイガンの最期を・・・
彼の身体は、駆けつけてきたシンルーラたちによって無残に殴打・・引き裂かれていたのだ。
帝国の敵! 侵略者の末路としては当然の報いだったが・・やはり奴は武人だった。
最後の最後で・・相討ちを覚悟にした必殺の一撃を放ってきた。
そして、その一撃は、見事にラトナの急所を貫いた。奴の目論見通りに・・・
この傷では、もはや助かる見込みはない!
「200年も生きたこの私が・・こんなところで・・いや! 私にはこの帝国を救う義務があるというのに」
溢れ出す赤い血・・・これほどの流血は、かつて経験したことがなかった。
200年前の戦乱の時代でさえ、これほどの惨状はなかったのだ。
「初めての体験・・」
ラトナの口元に、かすかな微笑みが浮かぶ。
痛みは、ほとんど感じない。
これは・・相当な痛みゆえに、神経が遮断されているのだろう。
覚悟を決める時が、来たのか!?
すると、鋼鉄の身体をまとった人型ゴーレム・・シンルーラたちがラトナの元に、あわてて駆け寄ってくる。
意思を持たぬはずの彼らから、焦りと悲しみ、そして涙が伝わってくるではないか!
まるで、心を持つ者のように。
シンルーラたちは慌てて何かを相談しているようだった。
その姿は、まるで仲間を救おうとする者たちのように見えた。
そう、私は、愛すべき人型魔導兵器・シンルーラたちに守られながら逝くのか。
嬉しくも悲しい。
少しづつ、薄れゆく意識・・これが200年生きた私が見た、最後の光景・・・!?
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ルシャーナ帝国の誇り・・帝都クラムにそびえ立つ象徴の巨塔"バベル"
その威容は雲を突き抜け、地上に長大な影を落とす。
まるで、帝国の威厳そのものを刻むかのように。
しかし今や! その象徴が、崩れ始めていた。
そう、物理的に塔そのものが、軋み、崩壊の兆しを見せ始めている。
そもそも、あの巨大な塔は建造物としては“ありえない構造”をしていた。
石とレンガだけで、雲を貫くほどの高さを誇るなど、常識では考えられない。
ましてや、大河の中州にこれほどの巨塔を建てれば、地盤が耐えきれず、倒壊してしまうだろう。
だが、それでも今日という日までは・・倒壊していなかった。
なぜか? それは、魔導の力が働いていたからだ。
魔導士ラトナから、放たれる目に見えぬ力。
帝国の象徴は、魔導によって成り立っていたのだ。
だが、そんな象徴も・・今日までとなった。
レイガンの大剣がラトナの腹部を貫き、 大量の血とともに、彼女の魔力が地面に流れ落ちる。
赤く染まる大地は、帝国の終焉を告げるかのようだった。
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族長・レイガンが討たれようとも、“海の民”自体の猛威は止まらなかった。
そう、彼はあくまでも“海の民”の構成民族のひとつ・・ニキア族の族長に過ぎなかったからだ。
ゆえに、数万の“海の民”はなおも帝都クラムを蹂躙し続けていた。
略奪と殺戮を、まるで祝祭のように歓喜しながら・・・
血は流され・・金銀財宝が奪われていく。
悲鳴と怒号が鳴り響き・・帝国軍はすでに壊滅!
防衛なき帝都は、今や地獄と化していた。
“海の民”たち、数万人は奪いに奪い・・殺しに殺した。
「こんなお宝みたことねぇぇぇ」
「邪魔だ! 死ね!」
「がっはっはははは」「笑いが止まんねぅぜぇ」
狂乱の宴は、果てなく続くかに見えた。だがその時、地鳴りが響く。
魔導士ラトナの魔導力が限界を迎え・・・
魔力によって支えられていた巨塔“バベル”が、ついに崩れ始めたのだ。
略奪に酔いしれる“海の民”の頭上へと・・・
巨大な石の影が、静かに、そして確実に迫っていた。
ズドッドドドドドッゴォォォォォォ
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
その日、帝都クラムは、巨塔“バベル”とともに、歴史から姿を消した。
成層圏にまで達する驚異的魔導技術によって築かれた巨塔、その存在は、まさに帝国の象徴だった。
だが、その魔導の根源が途絶えたその瞬間・・・すべては無へと変える。
そう、魔導士ラトナの発する魔力が失われたその瞬間、大地の重力が容赦なく巨塔に襲いかかったのだ。
塔は自らの重みに耐えきれず、下層から崩れ始め、そして・・ゆっくりと横倒しとなっていく。
しかもこの巨塔“バベル”は成層圏に達するほどの超高層建造物!
全長・・20ジャナルにも達するのだ。
そんな長大なる塔が、帝都もろともに・・略奪に酔う“海の民”たちをすべてを巻き込むかのように、頭上から襲いくる。
いや! それだけではすまされない。
塔の崩壊により、成層圏から降り注ぐ石の塊が・・音速に迫る速度で地表へと落下!
広範囲にわたって砂煙、衝撃波、轟音が巻き起こる。
その影響は・・幅数100ジャナルに及び、大陸全体を揺るがす強震となって世界を襲った。
帝都は、事実上消滅。“海の民”もまた、全滅した。
そして遥か遠く、西大陸の沿岸・・・人々は、空を覆う異変を目撃した。
東大陸全体から巻き上がる煙が、天へと昇り、青空を隠して、雷鳴が轟く。
その後に続いた地震と津波は、まるで・・・最後の審判。
世界の終わりを告げるかのようだったという。
それは・・ある魔導士の思い上がりと傲慢さへの戒めだったのか。
神々の怒りが、帝国を崩壊へと導いたのか。
後世の人々は、その出来事を語り継ぎ、 その行為に、驚きと恐怖を抱いたという。
<バベル・ラトナ叙事詩から抜粋>
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




