式札
それから・・・ラトナたちは街道をゆく。
そこは険しい山岳地帯・・
細い山道が山々の崖っぷちを縫うように伸び、人がようやくすれ違えるほどの幅しかない。
まるで蜀の桟道を思わせるほどの危うさ。
一つ間違えば、谷底に落ちかねないのだ。
そんな危険な酷道をラトナは、異界の店で買い込んだ陰陽道関係の書籍を読みながら歩んでいた。
当然ながら、これは極めて危険な行為である。
歩きスマホどころではない、命知らずの所業・・・
「ラトナ様・・・危険です!」
などとアユリーナに注意される始末。
酷道というか山道の細い崖っぷち通路の急カーブを、本を読みながら・・ドリフトもどきのように回り込む危なっかしさ。
見てるだけで、ハラハラしてしまうのだ。
なにかの曲芸か!? しかも命綱なし!
だが、そのラトナは・・
「大丈夫! 私の脳には・・ 並列処理魔導をかけているのだよ」
・・・と宣う余裕な表情、まったくの恐れなしといったところか!
(良い子はマネをしてはいけませんよw)
そんな陰陽道の書物に夢中となるラトナ・・
どうやらある程度の知識を身につけたのか!? なにやら呪文を唱えだしたのだ。
ちなみに・・この世界の魔導術に呪文は存在しない。
だが、異世界の術式"陰陽道"にはある程度、言葉を媒介とする必要があったのである。
「 ꯇꯣꯃꯣꯁꯦ ꯑꯣꯅꯤꯕꯤ꯫ 」
突然、そんな呪文を口にするラトナに・・アユリーナは思わず息を呑んだ
不可思議な響き、理解できない言語、意味もつかめぬまま耳にはいってくる。
「ラトナ様・・・それ、なんなのですか!?」
不安を隠しきれない表情で、アユリーナは彼女を見た。
「あっ えっと・・・これは呪文と呼ばれるもので」・・・とラトナは慌てて説明を始める。
アユリーナにも、陰陽道という術の仕組みを、きちんと伝える必要があるのだよね!
・・・といっても、彼女が説明できるのは初心者向けの書物に書かれていた範囲だけなのだけど
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ちなみに・・先ほどの呪文は見事に失敗しました。
「あらっらら~ 何も起きないね。残念!」
初歩の初歩、明かりを灯すだけの術なのだが・・旨くいかなかったのである。
この世界の魔導には魔力が必要なのだが・・あちらの世界の陰陽道には必要ないらしい。
その代わりに・・"式札"と呼ばれる札が必要とされており、その作成方法も書物に記載されていた。
まず、人型に切り抜いた紙を用意し、書物に記されていた"文字というか模様"を正確に書き写す。
"上出来! 上出来! 上手く作れたと思うよ。
それに魔導にも似た波動らしきものを、式札から感じとれた。これは手応えありってとこかな!"
だが・・それでも、陰陽術は発動しなかった。
「まだうまく掴み切れていないのよね! おそらく呪文というか・・発音が微妙に違うのかもしれない。ならば、声の響きが合うまで、試すべきだろう」
そう呟くと、ラトナは再び呪文を紡ぎ始めた。
静まり返った空気の中、響くのは彼女の声だけ・・・
「 ꯇꯣꯃꯣꯁꯦ ꯑꯣꯅꯤꯕꯤ꯫ 」「 ꯇꯣꯃꯣꯁꯦ ꯑꯣꯅꯤꯕꯤ꯫ 」
聞き慣れない響きと、理解できない 言葉♪
その唱和は途切れることなく続き・・繰り返されるので、側にいるアユリーナも思わず呪文というか、メロディーを口ずさんでしまった。
「 ꯇꯣꯃꯣꯁꯦ ꯑꯣꯅꯤꯕꯤ꯫♪ 」
「おやっ! アユリーナ君も・・やってみるかい!?」
そこで、ためしにラトナは・・彼女にも"式札"を渡してみた。
だが、結果は変わらない。術が発動しないのだ。
「何も起きませんね。ラトナ様」
アユリーナの声が寂しく響き・・ラトナはわずかに目を細めた。
「う~ん、難しいね。異世界の術式・・色々と試して、こねくり回し、何かを掴みたいのだが・・」
その視線は、じっと・・手に握られている"式札"へと注がれる。
「あっ・・・もしや!」
その札からは、たしかに力の気配、ある種のパワーというか、波動を感じるのだが、なにか説明のできない違和感を・・・感じ取った。
それは・・400年を生きたラトナの直観なのだろうか!?
"式札"から発する波動には、ほんの僅かな揺らぎがあり、微妙に不安定さを欠いていた。
もしかしたら、術を動かすための、質的パワーが足りないのかもしれない。
ならば、どうするべきか!?
答えはひとつ。パワーを与えるのだ。
ラトナは"式札"を近くの岩棚にそっと置き・・・両手をかざす。
「ならば、満たしてあげよう。私の魔力で・・」
彼女の呟きとともに、魔力が"式札"へと流れ込んでいく。
異世界の陰陽道と、この世界の魔導・・これらの二つの系統が、いま融合しようとしていた。
側にいるアユリーナは、思わず一歩下がり・・息をのむ。
"式札"が、ゆっくりと光を帯び始めたのだ。
淡い輝きは次第に強さを増し、まるで何かが目覚めようとしているかのように膨れ出す。
「えっ・・なに!?」
ゴッゴコロォォォッ・・・・
空気が震えた。ただ事ではない。
ラトナは反射的に身構え、アユリーナはまたしても師匠の背中へと隠れる。
「まずい……っ!」
ラトナは叫ぶより早く、魔導障壁を展開した。
一枚、また一枚・・・重ねられていく光の盾。
青白き輝きが、二人の少女を守るように、何重にも包み込んでいく。
"間に合う!? 間に合うのか!!"
次の瞬間・・・
岩棚に置かれた"式札"が、凄まじき衝撃波を解き放つ!
大地が震え、木々も岩も、周囲の物・・すべてが砕け散る。
そして、破壊の余韻を塗りつぶすかのように、真紅の炎が一気に噴き上がった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




