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異界の陰陽師


ラトナがそっと取り出したのは、薄緑色のパウダーを収めた小瓶の数々だった。

それは・・アシッドスライムから精製した特製の砂糖で、品質には絶対の自信があるという(ラトナ談)


彼女は近くのカウンターへと歩み寄り、小瓶をひとつ、またひとつ・・丁寧に並べていく。

淡い緑光を帯びた砂糖が瓶越しにきらめき、まるで自らの価値を示すかのようだった。


「この砂糖で交換・・・ってとこでどうかな!?」


ラトナの声が響いた瞬間・・店内にあの出所不明の(アナウンス)が流れ始めた。


『淡い緑色の砂糖ですね・・実に珍しい。こちらでは前例がありません。それでは、この砂糖の品質を調べてみます』


すると、ラトナが並べた砂糖瓶がふっと姿を消し、そして・・すぐに元の位置へと戻ってきた。


『確認しました。第一級・・最高級品です』


そんなことを言われたので、ラトナの口元がニヤリとつり上がる。

わずかな優越感に浸りながら、先ほど目にした現象・・・砂糖瓶が一瞬にして掻き消え、再び戻ってきた光景を思い出し・・驚く。


おそらく・・あの一瞬の間で、この小瓶の品質を調べたのだろう。

だとすれば、それは・・ラトナの知らない魔導! どういう仕組みなのか気になるではないか!


「えっと・・これは、いかなる魔導なのかな!? 興味があります。もし答えてくれるのなら、ありがたいのだが・・」


そんなラトナの問いかけに対して・・即座に返答が来た。


『お客様が申される"魔導"という言葉は存じませんが・・当店の在りようすべてが、陰陽術と呼ばれる術式上で構築しており・・・

全ての創始者・・安部の陰陽頭がその才をもって築き上げた秘術にございます』


「んっ・・・陰陽術!? 安部の陰陽頭!?」


聞き慣れない響きに、ラトナは思わず眉をひそめた。

長い眠りについていた時期があったとはいえ、この400年のあいだ、一度として耳にしたことのない言葉。


西の大陸でも、他の地域でも、そんな人物や術は聞いたことがない。


ならばこれは・・時空を越えた技なのか!?

それとも、異世界の誰かなのか!?

魔導とは何がどう違うのか。


その謎めいた響きに、ラトナの胸に、じわりとした好奇心が広がっていく


しかし、残念なことに、その後いくら安部の陰陽頭や陰陽道について問いてみても、簡単な答えしか返ってこなかった。

安部の陰陽頭という人物は、この世界の者ではなく、その上・・遥か昔の英傑らしい。

陰陽術という術式も秘術とされ、説明はごく簡単に留められた。


無理もない。その通りだ!

よそ者に術の核心を明かすべきではない・・・それは自分の魔導術でも同じこと。


だが、それでもいい。

この世に魔導以外の術式が存在することが分かっただけでも、十分すぎるほどの収穫だ。



-*- - - - - - *-


ラトナは、手元にある砂糖瓶をすべて使って、 交換できる商品を目一杯、選ぶ(買う)ことにした。


なんたって、この店に並ぶ商品は異世界製なのだから・・

そう、ここで手に入れなければ、二度とお目にかかれないだろう。

ならば、買えるだけ買うしかない。



"えっと・・もちろん、あの小便ではなく、瓶入りのミカンジュースもしっかり確保しました!"

それに・・そんなに高い交換比率じゃなかったので わりと大量に買い占め♡


一方で、店の奥には・・・空を駆けるという"エアーバイク"が鎮座していた。

ゴツゴツした金属製で・・一人乗りらしい!? 

跨って馬のように乗るゴーレムのようなものだという。

よくわからないが・・・とりあえず交換比率が馬鹿高い。超高級品!

もちろん買えるものではない。城が建てれるほどの価格なのだ。


どうやらそれは、星々の間を行き交うほど魔導技術が発達した世界の産物らしいが・・もう理解の範囲を軽く超えていた。


「わかんな過ぎる。宇宙・・!? 太陽系・・!? なんですかそれ!?」


『お客様・・詳しくは"宇宙大百科"をお買い求めください』


「ぬっ! ぬっ! それも選んでおくか・・・なんか買わされた気もするが」



結局、砂糖程度で手に入るのは庶民向けの雑貨や書籍ばかり。


それでも、日の光を当てるだけで計算してくれる計算機など、妙に便利な品もあった。


そんな中で・・ラトナは“掘り出し物”を見つけた。

それは・・・"陰陽道に関連する書物"

初心者向けで秘技が載っているわけではないらしいが、交換比率も手頃だった。


未知なる魔導・・"陰陽道"

その入口に、ようやく触れられるかもしれない。

ただし、書かれている文字はこの世界のものではないので、翻訳魔導を駆使しながら、少しずつ読み進める必要がありそうだ。


「ほおっっ! これは・・楽しみよね」



ラトナばかりが買い込んでいるように見えるが、アユリーナのための品も忘れてはいないよ。

下着や日用品・・・異世界製ゆえに使い勝手こそ少し違うものの、どれも実に便利そうだった。


「ラトナ様・・・あれもこれも、うちのために選んでしまってよろしいのですか」


「いいよ! いいよ! 手元の砂糖で交換できるものは・・目一杯買いましょう。ここでしか買えない珍品なのだから・遠慮はいらないよ」



ラトナは、交換できるだけの品を収納バッグいっぱいに詰め込んで・・ニッコリ、ホクホク顔!

見知らぬ異世界製品を手にして、興奮気味となっていた。


「これほどのワクワク感を味わえるなんて、何百年ぶりだろうか!」


アユリーナも、今だに店内を歩き回り、 興味深そうに(不思議そうに)に品々を眺め続けていた。


ーーーーーーーーーーー


"千客万来で傘もってこい♪ "のメロディが流れる・・謎のテルテル坊主傘(縁起物)

山吹色をした小判が入ったお菓子箱・・・悪代官への歳暮に最適です(汚職物)

布団が吹っ飛ぶ布団・・・などなとの珍品が並ぶw



-*- - - - - - *-


その後、満ち足りた余韻を残し、ラトナたちは店を後にする。

そして、歩みを止め、そっと振り返る。

"再び・・この異界の店に来れるだろうか!?"


あの謎めいた(アナウンス)によると・・・この店“峠の茶屋”そのものが、異世界を渡り歩く存在なのだという。

信じられない事なのだが、あの店に並んでいた品々を見ると・・おそらく本当だろう。


だとしたら、我らの魔導技術をはるかに凌ぐ、陰陽道の秘術。

脅威ともいえる技術だが・・・どうやら人間だけは転移させることはできないらしい。


そんな思いが胸をよぎる中、ラトナの視界がふっと揺らいだ。

アユリーナも息を呑み、ただ立ち尽くす。


突然の・・・霧だ! 

そして空間が歪む。


そう、あの“峠の茶屋”は白い靄に包まれ、まるで幻のように、音もなく姿を消したのだ。


突然の消失・・・あれだけ大きい店が、あまりにもあっさりと消えた。

幻想かと思えるほどに・・・


そして、跡に残されたのは、かつて店があった広い空き地だけ。

そこには、もう何ひとつ残っていない。

店は転移し、次なる世界へと旅立ってしまったのだろう。


ラトナは静かに呟く。

「・・・これじゃあ、もう二度と行けそうにないな」


納得と落胆が入り混じる声だった。





--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)



安部の陰陽頭・・そう書かれていても、必ずしもあの有名な晴明とは限らない。

室町の世に名を残した陰陽師・安倍有世という人物もいるのだ。

いったいどの人物を指しているのだろうか!?


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