高度に発達した魔導学は怪異と区別がつかない
ここは、とある山岳地帯。
街道と呼ぶにはあまりにも荒れ果て、もはや“道”などと形容するのもためらわれる酷道の先に、
ひときわ目立つ茅葺き屋根の大きな屋敷・・・いや、不思議な茶屋がひっそりと佇んでいた。
そう、そんな茶屋で、ラトナとアユリーナは、思いもよらぬ怪異に遭遇したのである。
始めのうちは・・小さい"呪いの人形"だった!
しかしそれが、みるみるうちに膨れ上がり、ついには巨大な銅像へと変貌したのである。
その姿は・・異世界風に言えば、まさしく巨大な"小便小僧"!
しかも、放水しながら二人の前に立ちふさがるという、前代未聞の事態となった。
ラトナは、サッと!・・その放尿攻撃を見事に避けきったかわりに・・
その背後で震えていたアユリーナの顔面に・・・バッシャァァン!
あの黄色い液体をもろに受けたのであった。
「うわぁぁぁぁ~」
なんという悲劇か!? なんという不幸か!? 反射神経が良いはずなのに直撃!
だがしかし・・である。
アユリーナは・・ぽつりと呟いた。
「これ・・ミカンジュースです♡ おいしいです」
「えっ!?」
衝撃の事実にラトナは耳を疑う。
"まさか、そういう趣味なのアユリーナ君・・・?"
・・と思いきや、違うらしい。
恐る恐る、ラトナも一口、口に含んだ瞬間・・・・にっこりデリシャス!
驚くほどに、それは美味しかったのである。
口いっぱいに広がる甘さと、どこか軽やかな余韻、これは癖になってしまいそう♡
それは別の意味での怪異! おいしさの怪異! いくらでも飲んでしまいたくなる。
「うん、いいね! いいね! 水筒に一杯いれてしまおう」
そう呟いたラトナは、収容バッグの奥から水筒を取り出し、小便小僧の“あの部分”へとそっと差し向けた。
「・・・・・w」
えっ、あっ!? ものすごく抵抗感を感じる。なにか不道徳というよりは・・不潔。
それは・・・なんか、いやだなぁ
だが、それでも。
口の中を優しく広がる甘さと、すっと消えていく軽やかな余韻・・・
その誘惑は、理性を軽く飛び越えてくる。
「しかたがないね・・・目をつぶるしかない」
ラトナは覚悟を決め、水筒を放尿の流れへと差し出そうとした・・・その瞬間、どこからともなく聞こえてくる音声。
『お客様! お持ち帰りは、有料となっております』
「んっ・・どなたかいるのかな!? 店員の人!?」
ラトナとアユリーナは反射的に身を強張らせ、周囲を見渡した。
だが、そこには誰の姿もない。聞こえてくるのは、絶え間なく流れる水音だけ。
それなのに・・妙な視線が、頭上から降り注いでいる気がする。
いや! まさか!? しかし元は呪いの人形
二人の少女は、ゆっくりと視線を上げ小便小僧を見た。
すると・・・なにやら"ニヤリ"と笑った気がしたが、やはり巨大銅像・・笑うはずがない。
ならば、あの声は・・どこから?
そんなラトナたちの戸惑いをよそに・・場違い的な音声が再び響き渡る。
『お客様! お客様! 当店は無人出張販売所です。すべての商品は、自動販売となっております』
ラトナは周囲を見渡し、もう一度・・音の出所を探すがわからない。音の方向がつかめない不思議な音声なのだ。
そんなことよりも、気になるのは音声の内容・・・ここはどうやら"無人販売所"ということになっているらしい。
・・・でも声はするし、返事も返してくる。
これで無人なのか!?
何らかの技による自動化なのか!? それとも透明人間!?
おそらくは・・高度な魔導技術が使われているのだろう。
かつてラトナが造り上げた・・人型魔導兵器シンルーラと同じ仕組みのように・・
「う~んっっ」
そう考えると、確かに納得できてしまう。
人の気配がまったくないだけで・・店屋として成立しているのだ。
鍋の中の食べ物は煮られいつでも食べられる。
商品は整然と並べられ・・取りやすくなっている。
店内はきわめて清潔、きちんと掃除されている。
そして、あの"小便小僧"も・・・よく考えれば、一種のイベント販売なのかもしれない。
視線を下に向けると、あの小僧の足元の棚には、、ジュースをたっぷり入れられているガラス瓶が大量に並べられていた。
おそらく・・あの小便の飲み物と同じものだろう。
しかも、その瓶のラベルには・・"当地名産のミカンを使用"と、誇らしげに記されているではないか。
「ふむふむ・・ふむ!」ラトナは小さくうなった。
これは・・怪異ではなく魔導の類かもしれない。
かなり高度な魔導技術を駆使すれば、これぐらいできるかもしれないと予想したからだ。
ーー 高度に発達した魔導学は怪異と区別がつかない ーー
ちなみに、怪異と魔導の違いについて語り出すと長くなるので・・ここでは割愛しておくw
ここが魔導仕掛けの無人販売所というなら・・喜んで買わせてもらうしかないな!
レイルール山の隠れ家から持ち出した200年前の古い貨幣もあるし、それに・・ついさっき討ち倒したバベル教徒の資金まであるのだ。
これだけあれば、金子に困ることはないはず・・!?
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無人販売所と称するこの店内は驚くほど広く、さまざまな商品や食べ物が所狭しと並んでいた。
まるで某異世界・道の駅といった趣で、どれもこれも見慣れぬ品ばかり。
ラトナはこれら商品を見て・・なにやら違和感というか、別の波動を感じたのだ。
「まさかね~いや! あの噂・・帝都伝説は本当だったのかも!?」
ラトナは目を瞑りしばしの思考、だが簡単に結論を出せる話ではない。
それでも・・ある程度の予想を立てるなら、この商品は・・この世のものではないような気がする。
いや! これは言い間違いだ。
こことは違う・・別世界から流れこんできた商品と表現した方がいいだろう。
別の世界・・または異界・・に存在する店が,時折この世界に出現するという噂がある・・帝都伝説
「不可解だが・・珍しい文物には違いない。資金が許す限り、珍しい品を買い集めておくべきだろう」
などと・・ラトナがそんな考えに浸っていた所・・・とある事を思い出した。
あっ そうだった! 忘れるところだった。
アユリーナの衣服を買わねば・・・
ラトナは周囲を見渡し、目的の物を見つけ、店の奥を指差した。
「アユリーナ君、あちらに・・衣料品があるようだよ」
向こうの棚に並ぶ衣服は、どれもこれも独特のデザインで、見たことのない造りをしていた。
だが、縫製の質はかなり良い。
みすぼらしい服を着ているアユリーナにとっては、まさにうってつけの一着であった。
「わあっ・・でも高そう。手持ちで買えるかな!?」
アユリーナの声は弾み、瞳は期待に輝いていた。
もちろん、ラトナも自然と興味を引かれ、衣服の棚へと歩み寄る。
棚に並ぶ衣服は、どれも機能性を重視した造りで、外出用の装備服のようにも見えた。
通気性も良さそうで、実用性は申し分ない。
二人は並んで、見慣れぬ衣服を手に取りながら、しばし無言で見入ってしまう。
"・・・遠国、見知らぬ文化圏の衣装なのかな!? でも魔導は感じないみたい。一般服だろうか!?"
そして最終的に選んだのは、無難な色柄の、ワンピースに近い袴風の服装だった。
あまりに目立つ服は避けたいし、明らかに高級品もダメだ。
その点、この衣服はちょうどよかった。
ラトナは赤を基調としたものを。
アユリーナは白を基調としたものを、それぞれ手に取る。
これらを買うことに決めた!
「えっと・・この支払いって、どうすればいいの!?」・・・とラトナが声を上げたところ、店内に、あの 声が静かに響き渡った。
『お支払いにつきましては、この世界での貨幣ではなく、この世界で手に入る"同等の価値を持つ品"との物々交換を、お願いしております』
そんな思いもよらぬ説明に、ラトナは目を丸くし、首をかしげた。
「物々交換なの!? 貨幣でなくて!?」
『はい。当店は幾多の世界を渡り、時空を越えて営業しております。ゆえに、各世界ならではの品を求め、収集をしているのです』
その 声を聞きながら、ラトナは胸の内でつぶやく。
薄々感じてはいたが、この店の商品はやはり異世界の文物、商品・・いや、そもそもこの店そのものが世界を渡り歩いて商売しているのだという。
それが本当なら・・なんと凄まじい魔導技術なのだ。時空や世界を渡るなんて・・!
「あまりにも未知すぎる。もはや超常現象」と苦笑しつつ、ラトナは支払いに差し出すべき物を思案し始めた。
この世界特有!?・・・・と言われてもね〜、そんな都合よくあるわけないじゃない。
そうぼやきながら、ラトナは収納バッグの中を覗き込む。
雑把な武器類、バベル教徒から漁ったガラクタ、どれも品質が低すぎてダメ!
衣類は自分が着るものなので手放せない。
魔導書は言うまでもなく大切な品、交換などできるはずがない。
そこでふと、ラトナの脳裏にひとつの品が浮かんだ。
あっ!? そういえば砂糖があったっけ。
アシッドスライムから精製した淡い緑色の砂糖。
品質には自信がある(自画自賛w)
「よし、これを物々交換の元手にしよう」
ラトナはそう決め、そっと砂糖の瓶を取り出した。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




