峠の茶屋
ラトナは、ほくほく顔で微笑んでいた。
“アシッドスライム”から精製されたポーション・・・いや、淡い緑色のパウダー。
見た目こそ少々アレなのだが、危険物ではない。
むしろその正体は、甘くて、甘くて・・・そして、とびきり甘い特製調味料。
彼女はそのパウダーをポーション瓶に詰め、ひとつずつ丁寧に収容バックに収めていく
だが、このバッグ・・ただのバッグではない。
それはラトナが作り上げた特製の魔導具・・収納したアイテムの重さを1/100にし、さらに内部容量空間を10倍に拡張されるのである。
そう、まだまだ入る! 余裕余裕!
収納の心配なんてまったくなし。
ラトナは満足げにニッコリと微笑むのだった・・♡
こうして・・“アシッドスライム”の危機は去り!?
大量の甘味も確保・・二人の旅はイルモの町を目指して続く。
そして、アユリーナの修行も、まだ始まったばかり、ラトナは彼女に魔導理論を教えながら、山岳街道を歩む。
ちょうど良いことに、たまに襲いくる魔獣たちは、アユリーナにとって都合の良い実戦訓練となった。
バシュ! バシュ!・・・バシュ~!
・・とはいえ、この辺りに出る魔獣はどれも弱いのだよね。あまり面白くないw
小型のスライムや、ふにゃふにゃなスライム・・そしてまた、いつものスライム。スライムばっかし。
一応、魔獣以外の一般獣、兎や鳥もたまには出てくるので、美味しくいただきました。
そして・・時には熊など遭遇することも。
そのときは、魔弾が一閃。
ズドォォォォン! 「今日は獣鍋だ!」
熊は一瞬で吹き飛ばされるのだった。
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そんな危険な!?山岳街道を二人は歩むが・・もちろん、すれ違う者は一人もいない。
(まぁ、一般人が行きかうには、やっぱし危険だよねw 人がいないのも納得!)
そのせいか、静寂だけが延々と続き、どこか不気味で、どこか寂しさを帯びていた。
「・・・う~ん、気が滅入るね」
「はい、何か怖いです」
ちょっとした肝試し状態。太陽がサンサンと大地を照らす真昼間なのに・・背筋が寒い。
やがて、曲がりくねった街道の先に、ラトナは・・かすかな影を認識した。
最初は岩か大木かと見まちがえるほどだったのだが・・・
歩みを進めるにつれ、その輪郭がゆっくりと見えてくる。
それは一軒の家屋であることがはっきりとわかった。
しかも、風に揺れる幾つもの"のぼり旗"・・峠の茶屋と書かれているではないか!
「こんな山奥に、食べ物屋だと?」
人の往来などまったくない場所に、場違いな茶屋。しかも立派な佇まい。
掃除もされ清潔感が漂うのだが・・なんとなく怪しさ満点! 異様な雰囲気。
ラトナもアユリーナも、思わず眉をひそめ、警戒心を隠せない。
まさか・・盗賊の隠れ家なのか!?
それとも・・妖の仕業なのか!?
茅葺き屋根のその家屋は、ちょっとした館のように大きく、(某道の駅のごとく)堂々とした存在感を放っていた。
店先には色とりどりの商品がずらりと並び、ひと目には繁盛している店にしか見えない。
だが、不思議なことに店員の姿も客の姿もなかった。
さらに奥へと視線を向ければ、そこは炊事場なのだろうか!? ゆらりと水蒸気が立ちのぼり、鍋の中では美味しそうな食材が静かに茹でられている。
しかし、やはりというべきか、人の気配はまったく感じられない。
暖簾がふわりと風で揺れるだけで・・人っ子一人もいないのだ。
まるで時間だけが、静かに流れ続けているかのごとく・・・
周囲を警戒しながら、家屋の中へと踏み入るラトナ。
「おじゃましま~す」
わざとらしいほどに声を張り、自分たちの存在を知らせてみる。
だが、返ってくる気配は、どこにもなかった。
店内もまた同じく・・見慣れぬ商品が所狭しと棚に並べられている。
この土地の民族品なのだろうか!? 形状はどこか奇妙で丸っこく、可愛らしい人形のように見える。
ラトナは思わず足を止め、その不可思議な品々をじっと見つめ、顔をしかめた。
"これは不味い・・・呪いの人形だな!"
彼女には分かる。
人形の奥底から染み出す・・目には見えない黒い影!
魔導力を持つラトナだからこそ察知できる、禍々しい呪力だった。
隣に立つアユリーナも、同じ気配を感じ取ったのだろう。
わずかに肩を震わせ、ラトナへと視線を向けた。
「ラトナ様、これは・・・」
「感じたのだな。やはりこれは、ただの品ではない。呪いだ!」
ラトナの言葉に、アユリーナはゴクリと喉を鳴らし、思わず目をそらした。
ちょっと怖いらしい。
もちろん、ラトナも警戒し・・決して触らない。
触らぬ呪いに・・祟りなしw
それにしても・・この店はいったい何だろうか!? やはり妖の類か!?
ここから早々に立ち去ったほうがよいだろう。
ラトナは踵を返し・・店から出ようとした瞬間!
「うっ!」
湯気が止まる。風が止まる。空気が止まる。
そして、音という音が、すべて消えた。
ーーー 無音! ーーー
まるで、この店内だけが世界から切り離されてしまったがごとく・・・
「まずい。きおつけよ! してやられたか・・・」
ラトナは即座に周囲へと警戒を向ける。
そして・・アユリーナは慌ててラトナの背に隠れた。
(おい! 師匠を盾にするなw)
その時だった。
先ほどまで棚に置かれていた・・あの“呪いの人形”がすくり、と立ち上がり・・こちらを見てニヤリと笑った。
おいおいおい! さすがのラトナも目を見開き、一歩・・後ろへと下がる。
「まじに・・ホラーか!?」
ちなみに、アユリーナは一瞬、気を失いかけたが・・気合でなんとか耐え抜いたようである。
だが・・その人形の異変はそこで終わらない。
人形の体が、風船のようにゆっくりと膨らみだして・・形状を変化させていく。
大きく・・さらに大きく・・ついには天井いっぱいにまで膨れ上がった。
そしてその姿は・・とある子供の巨像へと変貌したのである。
しかも、一糸まとまぬ姿で・・・!
某異世界風に言うと・・・・"小便小僧"
(攻めくる敵軍を小便で撃退したというあの某逸話の銅像になったのだ)
「あれ、なんて姿に・・・しかも! おいおい」
そう! 流れ落ちてきたのだ。あの液体が・・あそこからラトナやアユリーナの頭上へと・・・
ジョロジョロジョロ・・♪
「いや! わぁっ~ ちょっと! やめなさい!」
ラトナは素早く身をかわしたが、背後で震えていたアユリーナの顔面に直撃を受けてしまった(油断大敵だよ)
黄色い液体・・・き、きたな~い!
しかも匂いまで・・・・だが!
「あれ!? 甘い。おいしい。おいしいですよ・・ラトナ様!」
アユリーナの・・トンデモ発言を耳にして 顔を引きつるラトナ。
"そういう趣味なの!? 人の趣味にとやかく言うつもりは・・いや、違うのか!?"
そう、どうやら本当に美味しいらしい。
ありていに言えば・・・"ジュース"
口いっぱいに広がる甘さと、どこか軽やかな余韻、癖になってしまう・・みかん味
ラトナも・・いやいやな顔をしながら口に含んでみる。
「これ美味しいですよ! こんな飲み物、はじめて~」
「いや・・まぁ たしかに! でも、このシチュエーションは・・・!」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




