ドラゴンは我が子を千尋の地獄に突き落とす
「アユリーナ君、良い魔導力を持っているね。魔導士にならないか!?」
・・という胡散臭いラトナの勧誘に、アユリーナは即座に返答した。
「ラトナ様、ぜひ・・お願いします」
世間的には"魔法使い"・・すなわち魔導士は迫害の対象。
それでも、先ほど見たラトナによる圧倒的戦闘力、バベル教徒をなぎ倒す様は、まさに"本物の魔法使い"!
憧れを抱くのは当然のことだろう。
ましてや、最低限ながら魔弾を放つ力を持つアユリーナにとって、
この誘いは胸を高鳴らせるものだった。
それにまだ、心の奥底には、なお消えぬ影がある。
バベル教への憎しみ。
誰を討てば・・殺せば・・この気が晴れるのか分からないのだが、その怒りは燻り続けていた。
「うち・・頑張って、ラトナ様のような魔導士になります!」
その声は、決意と憧れを重ね・・ラトナも嬉しかった。
そう、アユリーナはラトナにとって子孫かもしれないのだ。
孫の・ひ孫の・ひ孫の・ひ孫の・・・・(繰り返し)
とりあえず嬉しい♡ 魔導の心得を授けてあげようじゃないの!
だがだが、この時代・・聞くところによると魔導士、すなわち“魔法使い”はほとんど存在していないらしい。
彼らは絶滅危惧種となりかけているとか!? まさかまさか!?
200年前、あれほど多くいた魔導士たちは、いったいどこへ消えたのか。
彼らは・・かなりの"ツワモノ"のはず、簡単に殲滅されるとは思えない。
どこかに身を隠しているのか、それとも本当にいなくなったのか。
さらに、貴重な魔導の知識までもが失われているかもしれないのだ。
数千年かけて積み上げられた魔導技術は、いまやロストテクノロジーなのか!?
「も、もしかしたら私が最後の魔導技術継承者・・最後の生き残り、ラスト魔導士って落ちはないよね!? ないよね!?」
ちょっと不安
ラトナは自問自答した。
たしかにこの大陸では・・魔導士は絶滅危惧種かもしれないが、さすがに他所の大陸では・・いるよね!?いるよね!?
またしても、ちょっと不安
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ラトナは道すがら、アユリーナに魔導の基礎を教えた。
魔弾などは、基本的な魔導であり、比較的に習得は可能・・・もちろん、才能にも左右されるがw
アユリーナはすでに基礎を身につけており、その点に不安はない。
「鍛錬を重ねれば、魔弾を十分に使いこなせるだろう。次は“魔導障壁”を教えなければね!」
「はい、ラトナ様」
素直な返事。
かつての弟子のように生意気ではなく、教える側としてはずいぶん楽である。
しかし、魔導というものは・・基礎だけでは不十分。
より高度な知識と技術が必要となる。
そう、高度な魔導を操るには、専用の媒介アイテムが必要だ。
それは持ち主の体質に合わせて作られた持ち主専用のアイテム。
その者に適した魔導刻印や魔導回路を埋め込まれており、発動を補助する仕組みを備えている。
ラトナが得意としていた・・かつての必殺魔導“剣撃の鉄槌"も、その一例である。
(もっとも、今のラトナは魔力が減衰しており、行使ができない)
ちなみに、ラトナが持っている媒介アイテムは、腕輪である!
見た目こそは安物だが・・その性能は折り紙付き。
それらをいくつも身につけているのだ。
媒介アイテムの形状は人それぞれだが、一般的には魔導士の象徴・・“魔導の杖”が選ばれることが多い。
「そうだね、アユリーナ君にもいずれ・・作ってあげねば!」
そう、ラトナはこうした魔導アイテムの製作も得意としている。
材料さえあれば・・自在に作り上げることができるのだ。
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山岳地帯を縫うように、目的地・・イルモの町へと続く街道。
蜀の桟道ほど険しくなく、道幅も広いとはいえ、横目に映る谷底は深く、油断すれば命を落としてしまうだろう。
そんな酷道を二人の少女が歩んでいた。
一人は黒髪に黒きローブをまとい、もう一人は同じ黒髪ながら、その身なりはみすぼらしい。
200年前・・王女だったラトナにとって、弟子なのか、あるいは子孫なのかもしれぬ彼女の姿は、どうにも見過ごせぬものだった。
「う〜ん、アユリーナ君、その姿は・・いや、ものすごく問題がある。何とかしないとね!」
そんなラトナの指摘に、アユリーナは思わず自分の姿を見下ろし・・恥ずかしそうに答えた。
「えっと・・どうしましょう!? これしか服がないのです」
「そうよね・・どうしょうかな~」
商人のような者とすれ違うことがあれば、衣のひとつでも買い求めようと考えていた。
だが・・すれ違わない。
そう、この街道を歩き続けて、すでにかなりの時が過ぎていた。
歩いても歩いても、人影はない。
酷道すぎて人が寄りつかないのか・・・それとも、何かが潜んでいるのか。
(確かにここは・・・不気味な感じがする。今は昼間でよいのだが、夜はちょっと怖いかもw)
そう、そんなことをラトナが妄想していると・・何か危険な気配を感じた。
やはりというべきか・・フラグの発動である。
ズルズル・・ズルズル・・
何かを引きずるような不気味な音が鳴り響き、そして現れる巨大な影。
二人の少女の行く手を塞ぐように・・緑色の、異形の塊が立ちはだかった。
横をすり抜けようと考えたが・隙間がない。
片側は絶壁、もう片側は奈落の底。
完全に道を塞がれた上に・・殺気を感じる。
「魔獣だね・・・スライム! しかも巨大ときたか」
ラトナの口元が吊り上がり、舌なめずり・・笑みを浮かべる。
それとは対照的にアユリーナは後ずさり・・身を震わせた。
「アシッドスライム! まずいですよ・・ラトナ様! 触れると火傷を負ってしまいます。それに足が速い・・」
「うん、そうだね。確かに危険だ。多分・・この街道に人がいなかった元凶だろうね」
ラトナは軽く頷きサムズアップ・・そして愉快そうに言葉を綴る。
「でもね! あのスライムは・・・私の好物、倒してしまえば美味しい調味料が作れるのよ!」
------- 魔獣解説 ---------
名前・・"アシッドスライム"
強力な酸を内包する・・大変危険な魔獣。
少しでも触れると・・皮膚が焼けただれ、大火傷を負う
しかも高速で突進してくるのだ。
弱小のスライムと侮るなかれ・・
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ラトナの言葉に、アユリーナは驚愕し、目を大きく見開いた。
「ラトナ様・・・あれを食べるのですか!?」
「もちろん!」
満面の笑みを浮かべ・・迷うことなく答えるラトナ。そして、彼女へと視線を向けた。
「さてと・・・始めましょうか・・ね! アユリーナ君」
「えっ!」
「教えた通り・・魔弾をあの獲物に向かって撃ってごらん。できるでしょ! 簡単なお仕事よ」
「えっ・・えっえっ!?」
ラトナ様からの・・いきなりミッション! いきなりのお仕事、要求!
あの・・スライム、あの危険な"アシッドスライム"を退治せよとは・・これいかに!?
アユリーナの声は裏返り、肩が小さく震えた。
視線の先にあるのは・・・不気味にうごめく“アシッドスライム”。
「無理・・無理無理!」
半ば涙目の彼女を、ラトナは愉快そうに眺め・・・さらに笑みを深める。
「さぁ、勇気を出すの! 君には出来る。教えたとおりにすれば問題なし!」
アユリーナには、すでに魔導の基本をある程度教えている。あとは実戦の経験をつませる。
“できる、できるはずだ”
そう信じながらも、ラトナの胸にはわずかな不安がよぎる。
もちろん、もしもの時には助けに入るつもりだ。
アユリーナは顔を引き攣らせながら、指を動かし出した。
どうやら腹を括ったのだろう。
魔弾を撃つ準備を整える。
「うち・・頑張ります」
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この大陸には、古くから伝わる言葉がある。
"ドラゴンは我が子を千尋の地獄に突き落とす”と・・・
ならば、あの子の子孫として・・師匠として・・w 涙を拭きながら・・笑みを浮かべる。
うっふふ〜 もちろん突き落したりしないよ!
そんな逸話など無視!無視!
だって私の大事な子孫なのだから・・
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




