ファーストコンタクト
草むらに身を潜め、ラトナは静かに歩を進める。
耳に届くのは・・女の悲鳴、男たちの怒号。
だが、その言葉を理解できない。何を喋っているのか分からないのだ。
まるで異国の響き・・・自分の知っている母国語とはまったく違っていた。
「そうか。そうだった! バベルの巨塔が倒れたせいか!」
ラトナは片眉を上げ、記憶を呼び起こす。
200年前、大陸全土を支配するルシャーナ帝国は目に見えぬ結界によって覆われていた。
その結界はバベルの巨塔から放たれた意思疎通の魔導・・・いわば自動翻訳
まるで電波塔のように大陸全土をカバーし、人々は無意識のうちに互いを理解し合っていたのだ。
この大陸にいる限り、民族の違いも、言語の壁も、すべてを越えて・・誰もが同じ世界を築けたのだ。
バベルの巨塔・・それは大陸統治をするために欠かせぬ存在だったのである。
ちなみに、その設計者は、他ならぬラトナ自身ですw
だが今、その巨塔は崩れ去り、結界は消えた。
人々は再び言葉の壁に閉ざされ、互いの言葉が理解できなくなってしまったのだ。
200年前、普通だったことが、今や! 普通ではなくなった。
「そうか・・そうだったな! 」
ラトナは静かに呟き、草むらの影へと身を沈めていく。そして、印を切り魔導を発動した。
それは・・言語翻訳の魔導。意思疎通ができなくなった以上、翻訳魔導を使うしかない。
これは二百年前、この大陸を離れ、西方大陸に訪れた際に用いた馴染みの魔導。
ラトナは息を殺し、再び遠くから響く声に耳を澄ませた。
これで言葉を理解できるはずだ。
-*- - - - - - *-
「魔法使いどもめ! 神の天罰を思い知るがいい!」
遠くに見えるは武装した男たち、そして・・その怒鳴り声が響きわたる。
次に、か細く震える女性の声も聞こえてきた。
「やめてぇぇぇ! うちは魔法使いなんかじゃない!」
懇願するような必死の訴えも、男たちの心を揺るがすことはなかったようだ。
「ならば、その黒髪は何だ!? 魔法使いの証ではないのか!」
「違う・・ただの髪の色よ! 魔法なんて使えない! なぜ、どうして!? 黒髪というだけで、こんなことをするの!?」
女性は涙声で叫ぶ。しかし、男たちの口元には冷笑が浮かんでいた。
「黒髪は悪しき存在・・心が腐っている証拠、悪魔に魂を売り渡したに違いない」
そんな言葉を浴びせかけられた彼女は、悔しさに震えながら、男たちを睨みつける。
「悪しき存在なんて・・ひどい! うちの家族も、村の人たちも、みんな・・あなたたちのような人たちに・・ころさ・・れ・・た」
震える女性の声が途切れた瞬間、男たちの表情が変わる。
「ほぉぉっ! そうか、おまえは・・あの村の生き残りか・・」
鋼の音が重く鳴り響き、剣の鞘が抜かれる。
そして、冷酷な宣告が落とされた。
「ならば問答無用! 魔法の血は隠せぬ。神の裁きからは逃れられん!」
その言葉とともに、絶望の刃となって女性の身体を切り裂こうとした瞬間、ラトナは思わず魔導を発動した。
-*- - - - - - *-
そう、ラトナは、その場の様子と言葉から、ある程度の事情を察した。
彼ら男たちの数は10名ほど・・何か儀式めいた行為をしている。
どうやらただの賊ではなさそうだ。宗教組織の武装集団なのか!?
しかも鎧も武器も白色に統一され、動きには練度が感じられる。
そして、彼らは黒髪を異端と見なし、危険視していることも分かった・・・というかつまり「自分のことなのか!」
(だって、私の髪は自慢の長い黒髪だもんね!)
さらに耳にしたのは、"魔法使い"という呼び名。
二百年前には聞いたこともない言葉だ。
だが、どうやら魔導士を指し示しているらしい・・・「やっぱり自分のことなのか!」
そして、あの武装した男たちの一人、リーダーらしき人物が、その女性の胸ぐらを掴み危害、いや殺害しょうとしたその瞬間、ラトナはとっさに魔導を放った。
バシュン!
弾ける音とともに悲鳴が鳴り響く。
「ぐわぁぁあぁぁぁ」
青白き球体、魔弾が男の胸を撃ち抜くとともに、後方へと回転しながら吹き飛ばされ・・何度も地面をバウンドした。
間一髪、その女性の命を救えたようだ。
「よし!」 ラトナは拳を握りしめる。
その女性を改めて見ると、確かに黒髪だ。ショートヘアーにダンゴが二つ・・ちょっと可愛いかも!?
だが姿はみすぼらしく、年の頃はラトナと同じくらい・・・16歳前後だろうか。
(ただしラトナの実年齢は400歳を超えていたりするw)
「おまえたち! こんな少女を、大の男が数人がかりで脅すとは・・なんて情けない。恥を知れ!恥を・・」
ラトナの怒声が響き渡る。
彼女は白き鎧と剣で武装した男たちを、鋭い眼光で睨みつけた。
それに対して、男たちは思わず怯み・・恐れる。
そう、彼らのリーダーが吹き飛ばされ、ピクリとも動かないからだ。
男たちの目に映ったのは、新たに現れた黒髪の少女。
見た目は可愛い・・・非力そうだ。年の頃も、ここにいる娘とほぼ同じだろう。
だが違う! 何かが違う! 普通ではない雰囲気。
しかも、その少女の身体全体が・僅かに青白く光っていたのだ。
男たちの思考が混乱する。何が起きたのか・・理解できない!
確かに、リーダーは不思議な力で吹き飛ばされ地面に叩きつけられたのだ。
しかも一瞬で・・・抵抗することなく。
「お・・おまえも黒髪、ま、まさか本物・・!? 実在してたのか!」
「やばい! 本物・・本物・・」
「まさか、よりによってこんなところで・・」
男たちの叫び、困惑・・
その言葉を耳にしたラトナは・・・またしても実情を把握した。
―― この男たちは、本物の"魔法使い"・・すなわち魔導士を見たことがない。
いや、そもそもその存在すら疑っていたのだ。
なぜだ!? どういうことなのか!? ・・・この200年の間に、魔導士の姿が消えてしまったというのか・・
あれほど数多くいたというのに・・!
何が起きた?! 天変地異か!? それとも集団失踪!?
う~ん! 実に不可解ではある。だが、それはさておき・・・問題は、あの男たちだ。
彼らはただ、髪が黒いというだけで・・"魔法使い"と決めつけ、迫害を繰り返していただけ・・
しかも、髪色と魔導力に何の関係もないにも関わらず・・本人たちでさえ信じていない"魔法使い像"を作り上げていたにすぎないのだ。
なんと浅はかな! なんと利己的な!
ラトナは口角を吊り上げ、静かに笑う。
「ふっ、おまえたちに本物の"魔法使い"とやらを見せてやろう」
「なにっ!?」「待て! 話を・・・」
動揺する男たち・・
見た目だけは"可愛いその少女"の威圧に、後ずさりしてしまう。
「逃げるのか!? 逃がさん! 自らの行いに絶望するのだな!」
そう言うやいなや、ラトナの指が素早く印を刻むと同時に・・10発もの魔弾が放出し飛翔!
全ての男たちは防御も構えもできぬまま、次々と命中した。
「弱い! 200年前の兵士なら、この程度の魔弾など避けきったはずだ」
ラトナの敵対者たちは、すべて宙を舞い・・そして地面へと叩きつけられた。
その顔には・・信じられないものを見たという、絶望の色を浮かべながら 永遠の眠りにつく。
どうやら全員・・仕留めたようだな!
ラトナはふっと笑みを浮かべ、顔を引きつらせている少女へと微笑みを投げかける。
命を救われたはずの彼女だったが、目の前に広がる惨劇に言葉を失い、その場に座り込んでしまう。
「大丈夫だ。心配はいらないよ」
ラトナの優しい声が響く。だが少女は震えたまま、呆然としていた。
おそらくは・・助かったという安堵感と、それ以上の恐怖・・・目の焦点が合っていない。
「お礼の一言ぐらいほしいのよね。だけど・・仕方がないね! そっとしておこう」
ラトナは小さく呟き、倒れた男たちに視線が移る。
鉄分の匂い、土は赤く染め上がり、静寂の中に重苦しい余韻が漂っている。
「すこしやりすぎたようだが・・あちらも殺意をもって少女を殺害しようとしたのだ。自業自得だな」
戦いを終え、戦果に満足したラトナ。
だが、魔力はすでに半分も消費してしまったようだ。
このままの連戦は無理だと、再認識する。
「う〜ん もっと修行が必要だね!」
短くため息をついたその瞬間、ラトナはふと視線を感じた。
その方向に振り向けば・・森の影に、ひっそりと潜む人物の姿があった。
仕留め損ねていたのか! いや、身を隠していたのか!?
その人物は、これまでの男たちとは違い、武装はしていない。
聖職者を思わせる質素な貫頭衣に身を包みながら・・どこか威厳を漂わせていた。
その人物とラトナ、互いに視線が交差すると・・やがて、その者は森から歩み出し、こちらへと歩を進める。
どうやら、男のようだ。
白髪をたたえながらも若々しく、手には宗教的な意味を宿す小さな聖具を握りしめていた。
「ふん、得体の知れない見知らぬ宗教!?の坊主か。いったい何者?」
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ラトナの問いに、その男の表情が困惑し・・歪む。
この姿を見れば、誰もが知っているはずの常識を、目の前の少女が知らないことに、男は・・驚きを隠せなかったのだ。
いや、それ以上に、本物の"魔法使い"を前にした我が身の危険性を、彼は強く感じていた。
それでも彼は聖職者。
神に仕える者としての覚悟を胸に、あらん限りの勇気を振り絞り、震える声を張り上げた。
「我は、祝福の女神・バベル公姫に仕える祭司長テセイだ。 そなたが悔い改め、"魔法使い"をやめるなら・・女神バベル公姫は、そなたを赦すであろう」
テセイと名乗る祭司長は恐怖し・・顔を青ざめながら、女神の御心、神威、畏怖を言ってのけたはずなのだが・・・
ラトナには何も伝わってこない・・・それどころか、まったく別の衝撃を受けたのだった。
"祭司長だって・・やはり何かの宗教だったか!"
しかも・・崇める神の名が・・祝福の女神バベル公姫だってw
もしやもしや!? バベル! 公姫!
おいおいおい! 笑い笑い笑い!
それって・・この女神の元ネタは・・・私のことではないのか!
世界ひろしと言えども、バベルの称号と公姫の位は・・私だけのもの
しかも祝福の女神扱い・・"嬉しいね"と思いつつ私、善行なんてしたことないのに神だとわねw 笑っちゃう
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




