白影の猿牙王(えんがおう)と、疾風の二人
南谷――雪崖が月光を返し、凍てつく風が吹き荒れる。
狂暴化した雪猿族は次々拘束されていったが――
突如、地面が大きく裂けた。
「……ッ!?」
灰牙狼団《Fang-Gris》の若頭ヴァルグが振り返る。
そこには――
身の丈三倍、白銀の毛が逆立ち、
背中から黒い瘴気の骨片が生えた
> 雪猿王
が、雄叫びをあげていた。
「ガアアアァァァァ!!!」
その凶腕が振り下ろされ、
岩壁すら砕け飛ぶ。
「下がれェ!!」
ヴァルグが仲間を庇い、
衝撃波に吹き飛ばされながらも踏み留まる。
(――まずい。あれはもう、仲間などではない)
牙を剥き、獣人としての本能が叫ぶ。
> 《ここで食い止めねば、谷が滅ぶ!》
雪猿王が跳躍し、
ヴァルグ目がけて影の爪を振り下ろす――!
その瞬間。
――パァン!!!
眩い光矢が放たれ、
影の爪ごと吹き飛ばす。
「……え?」
ヴァルグが見たのは――
雪煙を切り裂いて現れた二人組。
「おっそーいおっそーい!
その大きさで俊敏タイプとか、バランスブレイカーすぎっ!」
軽口交じりの声。
銀の短髪を揺らし、槍を肩に抱えた女が立つ。
その胸には羽根型のピンバッジ――
七星騎士団の紋章(暁星ではない)
しかしマントでほとんど隠している。
「師匠!早くしないと次の村にも被害が――!」
「師匠じゃないって言ってるでしょ?
“マスター” と呼びなさい、カイルくん!」
「はっ!了解です師匠!!」
「マスターって言えっつってんの!!」
(どっちでもいいだろ……)
と獣人たち全員が思った。
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ヴァルグが警戒を強める。
「人間……何者だ?」
女騎士は片目をつぶり、明るく笑った。
「ただの可憐で優秀な旅の槍使いだよっ♡
まぁ――影を追っててね。」
カイルも胸を張る。
「俺はカイル!
師匠と一緒に、瘴気を祓う旅を――」
「だからマスターって言えぇッ!!!」
「ま、マスターぁあああ!!」
ヴァルグは思った。
> (敵ではなさそうだ……たぶん)
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雪猿王が咆哮しながら突進してくる。
女騎士は槍を構え、楽しげに叫んだ。
「そんじゃ、始めよっか。
疾風式――《蒼閃!》」
氷風を裂き、碧い閃光が夜を駆けた!
カイルは剣に魔力を溜め、
「《断影剣》!!」
影を断ち切る光の軌跡が、
雪猿王の脚を縛るように走る。
ヴァルグも吠えた。
「灰牙狼団!!
奴の動きが止まった今が、全力で仕留める時だ!!」
獣人と人間――
互いに視線を交わし、言葉なく頷いた。
> 共闘が始まった




