雪牙の使命 ― 南谷の影を追え
北方山脈の麓――灰狼族の集落〈雪牙の谷〉。
氷風が吹き荒れる夜、焚火の明かりだけが闇を割いていた。
灰牙狼団《Fang-Gris》若頭
ヴァルグ・スノーファングは、
仲間の報告を受け、険しい顔をしていた。
「……南の雪猿族が倒れ始めたと?」
飛来した鷹人族の偵察兵がうなずく。
「はい。黒い霧を吐いて仲間を襲い始めたと……
自我を失った“影食い”の症状に似ています。」
焚火の周りで、仲間たちが不安げに唸り声を漏らす。
「瘴気か……」
ヴァルグは低く呟いた。
思わず、雪原で拾った黒い結晶――
影晶の欠片を取り出す。
「これが……増えている。
このまま放置すれば、
雪猿族だけでなく全ての種族が呑まれる。」
仲間の一人が焦りを露わに叫ぶ。
「どうする、ヴァルグ!
我らだけで止められるのか!?」
ヴァルグは静かに立ち上がり、
月に照らされた鋭い牙を見せた。
「止める。
これは“獣の脅威”だ。
人間との争いより先に――
この影を喰い破る。」
戦士たちの目に、再び光が宿る。
鷹人族の偵察兵が、か細い声で問う。
「……人間には、知らせますか?」
その言葉に、静かな沈黙が落ちた。
ヴァルグはわずかに眉をひそめる。
(南では“人間が闇を招いた”という噂もある……
だが、確証はない。
今は――戦うべき敵が他にいる。)
「必要になれば知らせろ。
だが今は、雪猿たちを守ることが先だ。」
その決断に、仲間たちが唸り声で応える。
> 「灰牙狼団、出るぞ!
影に呑まれた仲間を救いにッ!!」
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数刻後 ― 南谷
雪が赤黒く汚れていた。
山肌のあちこちに、爪で斬り裂かれた跡。
そして――
「マ、マ、マ……!!!」
雪猿族たちが狂った叫びをあげ、
仲間を噛みつきながら倒れている。
黒い霧が口から漏れ、瞳は闇色に濁っていた。
ヴァルグは仲間に命じる。
「噛まれるな! 影晶の毒だ!
拘束と鎮静――殺すな、救うぞ!!」
灰狼族の戦士たちが雪猿の群れに飛び込み、
縄を投げ、氷柱で足を封じ、
襲いかかる相手を捌いていく。
しかし――
「――ッ! 数が多い!」
仲間が押し負けそうになった瞬間、
ヴァルグが咆哮と共に突撃し、
氷の牙を纏った拳で道を切り裂いた。
> 「雪牙は仲間を捨てぬ!
影に負けはせんッ!!」
吹雪が彼らの戦いを隠し、
月光がその牙を照らしていた。




