国家の危機、宰相の采配
杖の一打で静まり返った大広間。
宰相オルヴィンはゆるやかに席を立ち、重鎮たちを冷徹な眼差しで見渡した。
「――諸卿。
アークライト令嬢の件は、もはや一貴族の不祥事ではない。
民の心を支える“象徴”が奪われたのだ。
このままでは、繁栄国家の威信が地に落ちる。」
その言葉に誰もが息を呑む。
だがオルヴィンは間を置かず、具体的な布令を矢継ぎ早に告げた。
王都三重防衛の布告
「王都の門、広場、主要街路に兵を配置せよ。商人たちには一時的な制限を課すが、民心を守ることが最優先だ。」
影晶の調査隊の結成
「学匠卿フェルディナンド。お前に王立魔導師団を預ける。即刻、影晶の性質を解析せよ。報告は私のもとへ直接上げること。」
辺境支援の約定
「ダリオス辺境伯。貴殿の領地に追加兵糧を送る。ただし代わりに、辺境軍の精鋭を百騎、王都防衛に差し出せ。」
商業の安定化
「リカルド・ローズマイン。市場を混乱させるな。兵糧と生活必需品の流通を維持する責任を負え。必要な補助金は王庫から出す。」
一人ひとりに具体的な役割を割り振られると、円卓の貴族たちは顔を曇らせつつも黙らざるを得なかった。
「我が言葉は、王の意志と同義である。」
オルヴィンは厳然と言い放つ。
「この危機を越えねば、王国は影に呑まれる。……諸卿、異論はあるまい。」
大広間は静寂に包まれる。
派閥の火種は消えてはいない。だがその時だけは、誰もがオルヴィンの采配を受け入れるしかなかった。
円卓の端に座るセオドリック・アークライトが低く呟いた。
「……さすがだな、宰相殿。
だが――必ず、娘を取り戻してもらう。」
オルヴィンの瞳がわずかに細まる。
「約束しよう、アークライト卿。
英雄の血を失えば、この国は二度と立ち上がれぬ。
――必ずや、影から奪い返す。」




