火心炉の街 ― 聖炎の剣と掘り出し物』
〈グラン・ノルデン〉王都鍛冶殿――〈火心炉〉。
地下深く、赤い結晶灯が炎の脈動に合わせて明滅し、
溶けた鉄の川が轟音を響かせて流れていた。
鍛冶王ブルグレンは、レオンから受け取った
青紅の結晶〈フレアライト〉をじっくりと眺める。
「……こりゃあ、すげぇ代物だ。 火と水が互いを喰らい……なお生きておる。 “炎喰い”の核を浄化して得た石だからこそだな。」
レオンが一歩前に出る。 「これを剣に。
瘴気を断ち、同時に浄化できる刃に仕上げて欲しい。」
ブルグレンがにやりと笑った。 「お前さん……まるで昔話に出てきた“不死の王レオン”のようだな?」
クラリスが微かに目を細める。 ノエル(=レオン)は淡く笑い返した。
「伝承は伝承さ。今はただ――この国を護る旅人に過ぎない。」
そこでクラリスが静かに進み出た。 腰の剣に触れ、毅然とした声音で言う。
「鍛冶王殿。
旦那様の剣だけではなく……私にも同じ力を宿した刃をお願いします。」
ブルグレンはクラリスをじろりと見た。
その目は戦士としての資質を測る鍛冶師の眼光。
「……ほう。
守られるのではなく、“共に斬る”覚悟ってわけか。」
クラリスは微笑み、深く一礼する。 「私は旦那様の剣であり、影を払う従者ですので。」
セリオが慌てて付け加える。 「ぼ、僕も守って欲しいですぅ! 二人とも強すぎるんですぅ!」
アリアがくすっと笑う。 「クラリスさんはただ守られるような人じゃないものね。」
ブルグレンは豪快に笑った。
「いいだろう! 二振りだ! だが、“炎と水”を馴染ませるにはな……」
彼は炉を叩き、響きを確かめるように言った。
「――三昼夜、炎を止められねぇ。
鍛える我らも命がけだ。」
レオンは静かに頷いた。 「感謝する。急ぎはしない。確かな刃を頼む。」
クラリスが鍛冶王に目を向ける。 「完成した暁には、必ず――影を払ってみせます。」
ブルグレンは両手を広げ、大声で叫んだ。 「よォしッ!! 聞けぇぇぇ、鍛冶師ども!! 火心炉に眠る炎を全て叩き起こせッ! “レオンの刃”(レオンブレード)と “月の剣”(ルナブレイド)を鍛えるぞッ!!」
奥からドワーフたちが声を上げ、
ハンマーが一斉に打ち鳴らされる。
ガァァン!
ガァァン!
ガァァン!!
炎の旋律がホール全体に響き渡る。
クラリスは振り返り、レオンを見つめた。
その瞳は炎の光を宿し、誓いを語っているかのよう。
「――旦那様。どうかお休みください。 剣が戻るまでの間は……私が、この手で守ります。」
レオンは微笑し、静かに頷いた。
「頼りにしている、クラリス。」
結晶灯が揺れ、炎が鼓動する。
こうして――
瘴気を断つ“二振りの光”が
火心炉で産声を上げようとしていた。
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王都鍛冶街・火の路地。
工房を出たアリアとセリオは、
熱気と活気が入り混じる市場通りを進んでいた。
「見てくださいセリオさん!
この魔導器、熱を利用して氷を生成してますよ!」
「逆ゥ!? 原理どうなってるんですか!?」
「それがドワーフ技術よ♪ 常識は裏切るもの!」
アリアは次々と露店へ顔を突っ込んでいくが、
その度にセリオは小声で財布を押さえて震えていた。
「も、もう今日は十分じゃ……?
僕の財布が、もう……!」
「大丈夫。見るだけ♪(買わないとは言ってない)」
「こわああああい!!」
──そんな中。
路地裏の薄暗い一角に、小さな古道具屋を見つけた。
棚には錆びたネジ、割れたレンズ、欠けた鉱石……。
見るからにガラクタだらけ。
店主のドワーフが鼻を鳴らす。
「暇じゃ暇じゃ。高ぇ買い物する客は来ねぇしな。」
アリアの目がぎらりと光る。
「……こういう店が 宝なのよ。」
「ま、またアリアさんの目が光ったぁ!?
そういう時は危険信号なんですよぉぉ!」
棚の奥へ手を伸ばしたアリアが、
埃をかぶった小箱を掴み上げる。
黒い鉄の箱。
全体に薄い蔦模様──ただの装飾にも見える。
アリアは微妙な顔をして言った。
「ふーん……ただのガラクタねえ……」
「ガラクタですよね!? 帰りましょ帰りましょ!」
「おい小娘。」店主が小箱を指で弾く。
「それ、昔拾っただけの鉄くずだ。
中身もない、重いだけ。」
アリアはあっさり言った。
「銅貨三枚で。」
「へいへい、持ってけドロボー。」
セリオがすかさず抗議した。
「っていうかホントに買うんですか!?」
アリアは清算を終えると、
店の外に出ながら小さく囁いた。
「……鑑定、発動。」
瞳が金色に輝く。
小箱に刻まれた蔦模様が、
淡い青の光となって浮き上がる。
セリオ「ひっ!? な、なんか光ってません!?」
アリアは低い声で告げた。
「これ、“古代アルヴィス王国期”の封印術式。
未解読の聖符結界が残ってる……」
セリオ「……へ?」
「つまり……
瘴気も魔族も一切近寄れなくなる“絶対防御の箱”。
中には《封印された何か》が眠ってる。」
セリオ「銅貨三枚でぇぇぇぇぇッッ!?」
アリアは満面の笑みで胸を張った。
「いい買い物をしたわ♪
店主には“紙鎮”って言われてたけど。」
セリオ「あの人絶対あとで泣きますよ!?
転売目的とかじゃなく……ホントに使うんですよね!?」
「もちろん。
封印を解くのは……もっと旅が進んでから。」
アリアの笑顔は楽しげで、
少しだけ──危険な輝きを宿していた。
セリオは震えながら囁いた。
「……アリアさんって、
やっぱり一番怖いのって人間ですよね……」
「ふふ、褒め言葉ありがとう。」
セリオ「褒めてませんぅぅぅ!!」
炎の街の喧騒の中、
二人の軽口が夜に吸い込まれていく。
そしてその小箱は――
後の物語で、大きな鍵となるのだった。
いつもありがとうございます。また近日更新します。




