焚き火の夜 ― 怖がり預言者のひとこと』
〈鉄炉亭〉での夕食を終えた夜。
雪がやみ、空には淡い星明かりが広がっていた。
宿の裏手――小さな焚き火のそばで、ノエルとクラリス、アリア、そしてセリオが肩を並べていた。
火の粉が静かに舞い上がり、湯気のように夜空に消えていく。
クラリスが木の枝で火をつつきながら言う。
「……こうして静かな夜を過ごせるのも、明日までかもしれませんね。」
アリアが頷く。
「ええ。南坑の“炎喰い”……魔力感知だけでも尋常じゃない瘴気を放ってるわ。」
ノエルが短く息を吐く。
「怯むな。闇が深いほど、灯は強く輝くものだ。」
そう言いながら、焚き火を見つめるその瞳は、どこか遠くを見ていた。
すると――。
火の向こう側で、セリオがじっと炎を見つめていた。
その表情は、いつもの情けなさではなく、どこか“真剣”なものだった。
「……あの。」
ノエルが目を向ける。
「どうした、セリオ。」
「なんか……変な感じがするんです。」
セリオは焚き火の炎を指さした。
「火が、すごく綺麗なんですけど……奥の方が、黒く濁って見える。
でもその奥に――青い光が、隠れてる気がして……」
アリアが小さく眉を寄せる。
「青い……光?」
セリオは小さく首をかしげながら続けた。
「はい。なんか、“火の底に水が眠ってる”みたいな……そんな変な感じがして。
それが目を覚ますと、炎が優しくなる……そんな気がします。」
ノエルがわずかに目を細めた。
「火の底に……水、か。」
アリアが興味深げに鑑定魔法を展開した。
「……不思議ね。セリオさんの言葉に反応して、火の波長が揺れたわ。」
「えっ!? い、今の僕の発言、物理的に影響ありました!?」
「ええ。あなたの“予知の共鳴”が発動したのよ。」
アリアの声は、静かに確信を帯びていた。
「セリオさんの預言は、感情や直感じゃなく、“未来の魔力の流れ”を読み取ってる。
つまり――あなたが見た“青い光”は、明日の戦いの鍵よ。」
クラリスが微笑んだ。
「水の精霊アクエラが、炎の試練に備えて教えてくれたのかもしれませんね。」
セリオは頭を抱える。
「うぅぅ……そんな大事なことを、怖がりな僕に教えるなんてぇ……
もう、責任重大じゃないですかぁぁぁ!!」
ノエルが穏やかに笑う。
「恐れることはない。お前の“青い光”が、我らの道を照らす。」
アリアが軽く頷く。
「“火と水が交わるとき、炎は清浄となる”――
きっとその意味は、明日わかるわ。」
セリオは焚き火を見つめ、
少しだけ真剣な声で呟いた。
「……じゃあ、明日は……ちゃんと守らないといけませんね。
この火も、みんなも。」
風が吹き、焚き火の炎が青く揺れた。
まるで――彼の言葉に応えるように。




