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不死王レオンとアルヴィス王国物語  作者: スガヒロ
第二章 氷冠の再誓(ひょうかんのさいせい)

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北西防衛線 ― 黎明の刃ミレーヌの報告

北西辺境――ヴァルクレスト領跡。

雪と風が唸りを上げ、砦の塔を揺らす。

かつて裏切りと血で汚れたこの地は、

今や“王国の北西防衛線”として再び息を吹き返していた。


吹雪の中、銀の鎧に身を包んだ女将が立つ。

第四位〈黎明の刃〉――ミレーヌ。

その瞳は冷たくも揺るぎなく、氷原の彼方を見据えていた。


隣に立つのは、片腕を包帯で覆った男。

元ヴァルクレスト副官――ゲルハルト・ヴァーン。

裏切り者ダリオスに仕えた過去を持ちながら、

いまはその罪を背負い、この地を守る剣として残っている。


「……風が、重いな。」

ゲルハルトが呟く。


「北からの瘴気が濃くなっている。」


「観測班の報告では、瘴気の流れが一晩で三倍に跳ね上がった。」

ミレーヌは雪上に広げた地図を見つめた。

「封印樹〈氷の門〉の影響域が広がっている可能性があるわ。」


「“氷の門”……北方の封印地、ですか。」

「ええ。数百年前、悪魔王の残滓を封じた最北の門。だが、最近その封印に“揺らぎ”が生じている。」


ゲルハルトは短く息を吐いた。

「つまり、影は北から――この地にも迫っている。」

「そう考えるのが妥当ね。」


彼女の声は冷静で、戦場の空気を支配していた。




その時、副官のハルベルトが駆け込んでくる。

「報告いたします! 北の尾根で獣人族の群れを確認。灰毛の狼型、十数名!

こちらを警戒している様子。まだ交戦の意志は見られません。」


ゲルハルトが地図の一角に指を置く。

「この区域は本来、雪猿族の縄張り。

 狼族が侵入するとは、理の境界が壊れ始めている。」


ミレーヌは低く呟いた。

「……瘴気は獣の本能すら乱す。

 彼らが争えば、王国領にも波及する。」


「命令を。」

「監視を続けて。交戦は避けなさい。

 彼らが瘴気に飲まれる前に、原因を突き止める。」


ハルベルトが頭を下げ、去っていく。



---


夜。

天幕の中で、ミレーヌは報告書をまとめていた。


> 「ヴァルクレスト砦再建、九割完了。

黒槍残兵・辺境兵、統制下に復帰。

獣人族の異常接近あり。敵意不明。

瘴気濃度、北方より急上昇中。」




ペンを置いた彼女は、焚き火の明かりに照らされたゲルハルトを見つめる。

彼は黙々と剣を磨き続けていた。


「……あの人の残した影を、よくもここまで払ってくれたわね。」

ミレーヌの声にはわずかな柔らかさがあった。

「我らが主の罪は消えません。」

ゲルハルトは目を伏せた。

「だが――罪の地を守ることでしか、報いる術もありません。」


ミレーヌは小さく頷いた。

「なら、この地を裏切りの象徴から、“守護の地”へ変えなさい。」

「……承知。」



---


夜明け前、吹雪がわずかに弱まる。

二人は砦の上に立ち、氷原を見渡していた。


「――見えるか。」

ゲルハルトの声がかすかに震える。

遠方の氷の山脈、その頂に微かな蒼い光が瞬いていた。


ミレーヌの瞳が細められる。

「……封印樹アズラリオンの反応。

 まるで“呼吸”しているみたいね。」


「まさか……封印が、目を覚ましつつあるのでは。」

「可能性は高いわ。」

ミレーヌは剣の柄に手を添える。

「もしそれが現実なら、王都が動くより前に――この地で押さえるしかない。」


ゲルハルトは頷き、雪の上に片膝をついた。

「黎明の刃が前を照らす限り、黒槍はその影を貫くのみ。」


吹雪が再び吹き荒れる。

ミレーヌの赤いマントが風に翻り、黎明の光を浴びて揺れた。


「――この地を、二度と裏切りの地にはしない。」

「そのために、我らは剣を取る。」


氷原に、刃と盾が並び立つ。

その光景は、かつての罪を雪で覆い尽くすように――静かに、美しく輝いていた。


いつもありがとうございます。また明日更新します

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