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不死王レオンとアルヴィス王国物語  作者: スガヒロ
第二章 氷冠の再誓(ひょうかんのさいせい)

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『盤上の再配置 ― 黎明の刃、北西を統べる』

王都・地下深く――紅の回廊。

血のような光が石壁を染め、天井を埋め尽くす無数の蝙蝠が息づいていた。


その中心で、ルカは玉座のような椅子に腰掛けていた。

黒の衣に包まれた細い指先が、魔導書の上を静かになぞる。


通信魔法の水鏡に、宰相オルヴィンの像が揺らめいた。



---


「……西方の動き、完全に沈静化しました。」

オルヴィンの声は低く、安堵を含んでいた。


ルカは瞳を細めて微笑む。

「ええ。西はもう問題ありません。

 噂の“風”は、目的を果たしました。

 小国家の人間の間に、疑いと誇りが交錯する……。それで十分です。」


「侵攻の恐れは?」


「ありません。」

ルカは軽く首を振った。

「荒野の国々は互いに牽制し、誰も国境を越えようとはしない。

 ――西は沈黙のまま、動かぬ“緩衝地帯”になるでしょう。」


彼女の声は穏やかだが、その言葉の裏にあるのは明確な支配。

ルカはただ“風”を吹かせただけで、一帯の戦火を封じていた。



---


だが、表情がすぐに冷えた。


「……問題は北。」


水鏡越しに、オルヴィンの眉がわずかに動く。


「北方山脈――氷門の周辺は、いまだ瘴気の波が安定しておりません。

 獣人族が森の境を越えつつあるとの報告もあります。」


「ええ。」ルカは椅子から立ち上がり、指を鳴らした。


闇の中から、蝙蝠の群れが飛び出す。

その影が壁に映し出し、やがてひとつの光景を浮かび上がらせた。


――吹雪舞う北西の地、ヴァルクレスト辺境。

雪原の中に新たな陣営が築かれ、鎧に身を包んだ女性が指揮を執っていた。


「第四位――〈黎明の刃〉ミレーヌ。

 彼女が、予定より早く到着しました。」


ルカの唇がゆるやかに弧を描く。


「元ダリオス軍の残兵――黒槍騎団の一部を含む兵も、

 全て彼女の指揮下に入ったわ。」


オルヴィンの目が見開かれる。

「つまり、ダリオスが築いた防衛線を、ミレーヌが受け継いだ……!」


「ええ。正式な王命を出す前に、もう“事実”が先に動いているのです。」

ルカの瞳が妖しく輝いた。


「彼女は自ら望んで前線に立った。

 “剣を振るうのは、守るためだけに”――

 その信念は、王国の光にふさわしい。」


蝙蝠の群れが再び壁を包み、映像が霧のように消える。



---


オルヴィンが静かに口を開く。

「……だが、北の獣人族はあなたの眷属の目が届かぬ領域。

 彼らは血と誇りで動く。噂も理も届かない。」


「その通り。」

ルカはゆっくりと頷いた。


「だからこそ、“剣”を置いたのです。

 理では届かぬ者たちに、言葉ではなく刃で“境界”を示す。

 それが、黎明の刃――ミレーヌの役割。」


「北を任せるには、彼女ほどの将は他にいませんな。」


「ええ。彼女は“夜明けの剣”。

 闇に呑まれかけた地を照らす光。

 ――そしてその光は、私の影を強くしてくれる。」


ルカの声は微笑みの中に、どこか艶やかで不気味な響きを帯びていた。



---


紅の回廊が静まる。

オルヴィンが最後に問う。


「……あなたは本当に、“均衡”を望んでいるのですか? それとも――混沌を?」


ルカは振り返らずに答えた。


「混沌のない世界に、均衡など生まれません。」


その言葉とともに、蝙蝠たちが一斉に飛び立つ。

紅の光が渦を巻き、ルカの姿を包み込んだ。


「西は眠り、北は覚醒し、東は祈りの森。

 残るは――氷の門。」


彼女の声が闇に消える。


その夜、ルカの眷属たちは吹雪の中で新たな命令を受け、

ミレーヌ率いる北西防衛陣の上空を、静かに旋回していた。

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