転移の光 ― 怖がり預言者と好奇心の鑑定士
森の奥、聖樹の根元。
リュミエールが紡いだ転移陣が、淡い緑光を放ちながらゆっくりと回転していた。
空気が澄み、周囲の風が静かに渦を巻く。
「――転移陣、起動完了。」
リュミエールの澄んだ声が響く。
アリアは目を輝かせ、転移陣の幾何紋様を食い入るように見つめていた。
「す、すごい……古代式の構造! 幾何魔紋と植物魔力が融合してる……第五世代転移術式だわ!」
「ほう……詳しいな。」
ノエルが感心したように言うと、アリアは少し頬を赤らめた。
「い、いえ……鑑定士ですから! こういうのを見るとつい……!」
その横で、セリオが真っ青な顔をして転移陣を見つめていた。
「ま、待ってください……これ……人が乗っても……ほんとに大丈夫なんですかぁ!?」
クラリスが微笑みながら言う。
「何を言っているんですか。転移陣なんて、今さら怖がることでも。」
「い、今さら!? ぼ、僕は地面と仲良しなんですぅ! 宙に浮くのは信じません!」
ノエルが静かに立ち上がる。
「心配はいらん。昔から使っている。森の加護があれば失敗することはない。」
「そんなフラグ立てるようなこと言わないでくださぁい!!」
セリオはじたばたしながらアリアの袖を掴んだ。
「アリアさん、やめときましょう! 未知の技術は危険ですって!」
アリアは逆に目を輝かせた。
「何を言ってるの。千年前の転移文明の術式よ! 乗れるなんて一生に一度あるかないか!」
「どっちの方向性でも不安ですぅぅぅ!」
クラリスが小さく笑い、ノエルが淡々とした声で言う。
「では行くぞ。セリオ、しっかり立っていろ。」
「ま、待って、まだ心の準備が――ぎゃあああ動いたぁぁぁ!」
リュミエールが杖を掲げると、転移陣が光を増し、風が渦を巻く。
アリアが興奮気味に呟いた。
「重力反応ゼロ……空間層が折り畳まれてる……すごい、次元の波が見えるわ!」
セリオは必死に目をつむり、両手を合わせて祈る。
「もうやだぁぁぁ! 足が床にないぃぃぃぃぃ!」
光が弾け、世界が反転する。
――音が消え、風が止まり、そして雪の冷たさが足元に広がった。
---
転移後 ― 白銀の大地
セリオは雪の上に突っ伏していた。
「うぅぅ……魂が三回出ましたぁ……」
アリアはその横で転移陣の残光を記録している。
「転移座標、誤差ゼロ……安定率完璧……! リュミエール様ってやっぱり化け物級ね……」
クラリスが苦笑して言う。
「アリアさん、少しセリオさんにも気を使ってあげてください。」
「え? ああ、セリオさん無事でよかったですね!」
「遅いぃぃぃ!」
ノエルが吹雪の向こうを見つめる。
白い山々が遠くに連なり、その頂きには淡い蒼光が漂っている。
「……あれが、“氷の門”の山脈か。」
アリアが風を読むように目を閉じた。
「瘴気の流れが確かに北へ向かっています。封印樹アズラリオンの異変はここから始まっている。」
クラリスが剣の柄を握りしめる。
「旦那様、今度こそ影の根を断ちましょう。」
セリオが震えながら言う。
「ひ、氷の門って……絶対寒いですよね……? ぼ、僕、霜焼け体質なんですけど……」
「ご安心を。」クラリスが笑った。「私のマントの中に入れて差し上げます。」
「そ、それはそれで羞恥が限界ですぅぅぅ!」
ノエルが苦笑を浮かべ、雪を踏みしめた。
「出発だ。――ただし、まずは物資の確保だ。」
アリアが頷く。
「この辺りから北東に進んだところに、**ドワーフの小国“グラン・ノルデン”**があります。
山岳地帯の鍛冶職人の国で、北方遠征の補給拠点にもなっているはず。」
クラリスが地図を広げ、雪上に小さな赤印をつける。
「なるほど……補給を兼ねて立ち寄るのに最適ですね。」
セリオが顔を上げた。
「ど、ドワーフの国って……もしかして、お酒強い人たちの!?」
「そうね。」アリアが笑う。「鍛冶と酒の国よ。きっと温かい食事もあるわ。」
「そ、それなら……少しだけ、行ってもいいかも……!」
ノエルが小さく笑い、雪原を見渡した。
「決まりだ。――次の目的地は“グラン・ノルデン”。」
風が吹き抜け、雪片がきらめく。
遠く、氷の山脈の向こうには、鍛冶の煙を上げるドワーフの国がかすかに見えた。
彼らの旅は、新たな出会いと、さらなる運命へと続いていく。
いつもありがとうございます。本日の更新はここまでです。また明日更新します。




