森の祝福 ― 光と水の導き
夜明け。
森を抜ける風が、まるで新しい世界の息吹のように柔らかく吹き抜けていた。
アリアは焚き火のそばに座り、掌に魔力の光を灯していた。
その光が、仲間たちの足元に浮かぶ“淡い紋章”を照らし出す。
「……やはり、この紋章は“森の祝福”ね。」
彼女の声に、クラリスとセリオが顔を寄せた。
「リュミエール様がくれた光……ですよね?」
「ええ。けれど、ただの加護ではありません。
彼女の矢――〈オーロラボウ〉の魔力と、聖樹の脈動が融合した“結界術式”です。」
アリアは魔力を展開し、淡い緑の魔法陣を浮かべる。
光の糸が、ノエルたちの身体を包み込んだ。
アリアの瞳が金色に光り、解析の言葉を紡ぐ。
「――鑑定結果。
森の祝福。
聖樹の息吹を宿し、瘴気への耐性・再生能力を高める効果あり。
特に、瘴気汚染や魔族の干渉に対して防御障壁が自動的に発動する。
さらに……心の均衡を保つ加護。」
クラリスが小さく目を見開く。
「心の均衡……ですか?」
「ええ。恐怖や絶望に囚われたとき、この加護が“心を正す”の。
つまり――精神の腐食を防ぐわ。」
ノエルが頷く。
「……つまり、闇に呑まれぬための加護か。」
アリアは微笑んだ。
「さすがレオン様。ええ、リュミエール様は貴方を信じて託したのね。
この祝福は、“不死の王”すら心を保てるよう作られたもの。」
クラリスが静かに微笑んだ。
「ならば、どんな闇でも進めますね、旦那様。」
アリアは続けて、セリオの右手に刻まれた青い紋章に指を当てた。
水面のような魔力が波打つ。
「ふむ……これは――珍しいわね。」
「え、へへ……また変なもん拾っちゃいました?」
「拾ったどころか……精霊と“正式契約”してるわ。」
「せ、正式契約!? ぼ、僕が!?」
「うん。水の精霊〈アクエラ〉……古代から森の循環を司る存在。
彼女の加護が君の魔力と同調してる。」
アリアの声に、ノエルとクラリスも近づいた。
「……効果は?」
アリアは軽く笑って言った。
「守護系統ね。瘴気や魔法を“水壁”として反射・吸収できる。
それと――仲間の生命力を水流に変換して循環させる“再生の共鳴”効果もあるわ。」
アリアは軽く笑って言った。
セリオがきょとんとした顔をする。
「……す、すみません、それってどういう……?」
アリアは指先で水の糸を描きながら、やさしく説明した。
「簡単に言うとね、仲間の“元気”を水の流れのように繋いで、
みんなの体力や魔力を少しずつ回し合うってことよ。
誰かが傷つけば、他の仲間の力が流れ込んで助ける――
まるで小さな水の輪のように、命を循環させるの。」
「えっ……じゃあ、みんなで支え合う感じですか?」
「そう。君が中心になって“流れ”を保つの。
だから優しすぎると、自分が少し疲れちゃうかもね。」
セリオは目を丸くしながらも、口をへの字にした。
「うぅ……それって、また胃が痛くなるやつですよね……」
クラリスがくすっと笑う。
「ええ、でも“優しさが力になる”なんて、セリオらしいですわ。」
ノエルが静かに頷く。
「お前の力は守りの力だ。臆病でも、それを誇れ。」
「うぅぅ……褒められると余計プレッシャーがぁぁ……」
「安心しなさい。アクエラが君の心まで包んでくれるわ。」
アリアがそう言って微笑むと、
セリオの紋章が一瞬だけ青く光り、波紋のような光が仲間たちへと広がった。
ノエルがセリオの肩に手を置いた。
「よくやった。お前の優しさが精霊を呼んだんだ。」
「うぅぅ……褒められてもうれしいけど胃が痛いですぅ……」
クラリスがくすっと笑う。
「あなたの胃が持つかが次の戦いの鍵ですね。」
「うぇぇぇぇぇ……」
やがて、森の外縁――見晴らしの丘に立った。
遠く、雪を被った山々がうっすらと光を反射している。
ノエルが静かに呟いた。
「……あれが、北方の山脈。氷の門のある地か。」
アリアが風を読むように目を閉じた。
「間違いありません。“影の流れ”が北へ向かっている。
封印樹の一つ――“氷の聖樹アズラリオン”が、すでに軋み始めています。」
「つまり、そこが次の影の侵食点……。」
クラリスが剣の柄を握る。
「旦那様、今度こそ、影の根を断ちましょう。」
セリオが不安げに言う。
「ひ、氷の門って……寒いところですよね……? ぼ、僕、霜焼けになりやすいんですけど……」
クラリスが苦笑しながら言った。
「ご安心を。私のマントの中に入れて差し上げますよ?」
「そ、それはそれで恥ずかしいぃぃぃ!!」
ノエルが小さく笑い、剣を背負い直した。
「冗談はそこまでだ。――出発するぞ。
北方、“氷の門”へ。」
アリアが頷き、風の中で聖樹の葉が一枚、ひらりと舞う。
それはまるで、森が彼らの旅路を見送るように光っていた。




