森の民 ― 光弓の再会
森の奥深く――聖樹の瘴気が晴れたあと、
風は清らかさを取り戻しつつあった。
ノエルたちは、聖樹の根の脈動が静まったのを確認すると、
アリアの案内で森の奥へと進んでいた。
「この先に……何か、大きな魔力の波動があります。」
アリアが足を止め、手を翳す。
「まるで……聖樹と同じ“系統”の魔力。ですが、もっと“古い”です。」
クラリスが剣に手をかけた。
「旦那様、警戒を。」
ノエルは頷き、木漏れ日の射す方を見上げる。
――その瞬間、風が舞い、光が降った。
眩い粒子が渦を巻き、空中に一本の光の矢が形成される。
矢は地に突き立ち、光がほどけるように人の形を取った。
白銀の髪、蒼き瞳。
細身の鎧に、背には“光の弓〈オーロラボウ〉”。
「――ようやく来てくれたのですね、レオン。」
ノエル(=レオン)はわずかに息を呑んだ。
「……リュミエール。」
クラリスとセリオ、アリアが思わず足を止める。
目の前に立つハイエルフの乙女は、どこか神々しいほどの気配を纏っていた。
「貴女が……ハイエルフの長?」
アリアが問いかける。
リュミエールは穏やかに頷く。
「長などではありません。私はこの森の“記憶”を継ぐ者。
あなたたちが聖樹を救ってくれたこと、森全体が感じ取っていました。」
彼女は一歩近づき、まっすぐにレオンを見つめる。
「でも、貴方が来た理由は――違うのでしょう?」
レオンは静かに視線を合わせた。
「北方の影。魔族の残滓が地上に滲み始めている。
その経路を確かめに来た。」
リュミエールは目を閉じ、風に耳を澄ませる。
「……やはり。“氷の門”が軋んでいる。
かつて貴方と我らが封じた“影の源”が……再び動き出したのです。」
セリオが不安そうに言う。
「“影の源”って、あの悪魔王のことですか?」
「違います。」リュミエールの声は低い。
「悪魔王はただの器。真の“根”はそのさらに奥――
虚界の奥底に眠る“影核”。
それが揺らげば、闇は再び世界を覆うでしょう。」
クラリスが眉をひそめる。
「……つまり、私たちが浄化した森も、その影響のひとつ?」
「ええ。」リュミエールは頷いた。
「この森の聖樹は、世界の“封印樹”のひとつ。
それが侵されるということは、各地の封印も弱まっている。」
ノエルは腕を組み、静かに言った。
「ならば、放ってはおけんな。
北へ向かう。氷の門の様子を確かめる。」
その言葉に、リュミエールは微笑を浮かべた。
「……やはり、貴方は変わらない。
不死でありながら、なお“生の責務”を背負い続ける。」
ノエルの表情に、わずかな哀しみが浮かぶ。
「不死は贖いだ。
守れなかった者たちへの――な。」
リュミエールはその言葉を受け止めるように目を伏せ、
ゆっくりと弓を掲げた。
「ならば、せめてこの森の加護を授けましょう。
貴方が再び戦うというなら……我が矢は貴方の影を照らします。」
弓が光を放ち、四人の足元に淡い紋章が浮かぶ。
聖樹の葉が舞い、風が歌う。
アリアが息を呑む。
「これが……森の祝福……!」
セリオが目を輝かせる。
「なんか、すごく力が……体の奥からあふれてきます……!」
クラリスが微笑み、静かに言った。
「旦那様、これで準備が整いましたね。」
ノエルは頷き、リュミエールを見つめた。
「ありがとう、リュミエール。
……また共に歩める日が来るとは思わなかった。」
「ええ。けれど、貴方が“永遠”であるように、
私もまた、時を超えて貴方を見てきました。」
彼女の瞳が優しく揺れる。
「どうか、今度こそ――この世界を救ってください。
あの夜に願ったように。」
レオンの表情に、わずかに微笑が戻る。
「約束しよう。
今度は、誰も失わない。」
風が吹き抜け、
森の奥から聖樹の葉が舞い上がった。
そして――
彼らの新たな旅路は、北方の地へと続いていく。




