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不死王レオンとアルヴィス王国物語  作者: スガヒロ
第二章 氷冠の再誓(ひょうかんのさいせい)

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聖樹の森 ― 光を失った聖域

東の大森林――

王都から三日。

湿った風が吹き抜け、陽の光が届かぬほどに木々が密集している。


そこは“聖域の森”と呼ばれ、

かつて精霊とエルフたちが共に暮らしていた地。

だが、今の森には鳥の声も虫の音もなかった。

ただ、何かが腐るような静寂だけが満ちている。



---


「……空気が違う。」

クラリスが短く息を吐いた。

「瘴気とは違いますね。もっと……生き物そのものが怯えている感じです。」


アリアが頷き、静かに言葉を紡ぐ。

「“生命の脈”がねじれています。

 命を支える魔脈が、一本ずつ逆流しているような……。」


セリオは背筋を震わせた。

「ひぃぃ……やっぱりここ、普通じゃないですよぉ……!

 なんか、森全体が僕たちを見てる感じがしますぅ……!」


「感じているのは、間違いじゃない。」

ノエルが前を見据えたまま言った。

「森の“主”が、我らを試している。」


その声が終わると同時に――霧が流れ、

前方の木々が裂けるように開いた。


視界の先、巨大な樹が立っていた。

根は大地を貫き、枝は雲を突き抜け、

その幹からは淡い金の光……ではなく、黒紫の脈動が走っていた。


「……これが、“光の聖樹”?」

セリオが息を呑む。


かつて聖なる光を放ったはずの樹は、

今はまるで、命そのものが腐食したように歪んでいた。

枝に宿る葉は枯れ、根元には黒い結晶が芽吹いている。


「“影晶”が……聖樹の根にまで侵食してる……!」

アリアの声が震えた。

「でも、これは自然な汚染じゃない。

 誰かが、意図的に“影晶”を植え込んでいます。」


クラリスが剣を抜き、根に近づこうとした瞬間、

ノエルが手を上げて制した。

「触れるな。瘴気が濃すぎる。」


「……旦那様。まるで生きているみたいです。

 影晶が……鼓動している。」


ノエルは静かに目を閉じた。

「――ああ。

 この樹には、かつて“封印”を施した。」


アリアが驚いて振り向く。

「封印……? まさか、旦那様が……!」


「数百年前、悪魔王の残滓が森に流れ込んだ。

 それを封じるため、聖樹の根を媒介に“影晶”を縫い止めたのだ。

 だが……今はそれが反転している。」


クラリスが息を呑んだ。

「封印が……逆流しているということですか。」


「そうだ。」ノエルの声は低い。

「聖樹は本来、“光”を媒介に瘴気を浄化する。

 だが今は“影”に侵され、浄化が呪いに変わっている。」


アリアは掌を光らせ、樹の根を凝視した。

「……中枢部に“核”があります。

 それが、影晶を増幅させている原因。

 でも……“人の魔力”が絡んでいる。

 この汚染は、自然ではない。」


セリオが不安げに周囲を見回した。

「じゃ、じゃあ、誰かが“ここ”を狙って……!」

言葉の途中で、彼が急に硬直した。


「――あ……!」

目が見開かれ、手が震える。


クラリスが駆け寄る。

「セリオ、どうしたの!?」


「見える……見えるんです……!

 光が……樹の奥に……“涙”みたいなのが……!」


「涙?」アリアが反応する。

「それは……!」


ノエルが静かに頷いた。

「“聖樹の涙”――結界の核だ。

 森と王国を結ぶ最後の光の残滓。」


セリオの瞳に光が宿る。

「でも……泣いてるんです。

 “助けて”って……。」


クラリスが口を噤む。

アリアは胸に手を当て、震える声で言った。

「……光が、泣いている……。」


ノエルはゆっくりと剣を抜いた。

「ならば、行くしかない。

 光が呼ぶなら、我らが応えよう。」


その瞬間、聖樹の根がうねり、地面が裂けた。

黒い瘴気が吹き出し、無数の影の触手が伸びる。


「来ます!」アリアが叫んだ。

「浄化の逆流が“防衛反応”になってる!」


「退くな!」ノエルが剣を構える。

「――これは、聖樹が我らを試している!」


蒼光の剣が閃き、

闇と光がぶつかり合う。

瘴気の波が爆ぜ、風が森を吹き抜ける。


その中心で、ノエルは確かに感じていた。


「光はまだ……消えていない――!」


ノエルの剣が、黒い根を断ち切った。

瞬間、森に差し込む一筋の光。

それは“聖樹の涙”の在り処を照らすように、淡く森の奥へ導いていった。



いつもありがとうございます。また明日更新します。よろしくお願いします。

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