アリアの来訪 ― 鑑定士、旅の仲間に
王都アルシオン・南門の外れ。
避難民支援の任務を終え、ノエル(=レオン)一行は荷を整理していた。
明日の朝には、東の街道を抜け、森へと向かう予定だった。
夕焼けの光が石畳を染める中、
クラリスが荷の最終確認をしている。
「薬草……保存食……テントも完了。
あとはセリオが戻れば出発できますね。」
「セリオなら、例の鑑定士と話している。」
ノエルが穏やかに言う。
「彼女――アリア・フェンリスと言ったか。」
クラリスは眉を上げた。
「フェンリス? ……あの“古代鑑定学派”の一族ですか。」
「らしい。」
「その名前を聞くだけで、王都の学者たちが頭を下げるほどの名門ですよ。」
そのとき、足音が近づいてきた。
「た、ただいま戻りましたぁ!」
セリオが息を切らせながら手を振っている。
その隣には、白衣の少女――アリアが静かに歩いていた。
「アリアさんが、どうしても旦那様たちにお話したいって!」
アリアは軽く頭を下げた。
「突然お伺いして申し訳ありません。
ですが……どうしてもお伝えしたいことがあって。」
ノエルが静かに促す。
「話してくれ。」
少女の瞳がわずかに光を帯びる。
「この国の“流れ”が乱れています。
瘴気や影晶だけではありません――“魔脈”そのものが歪み始めている。
人も、森も、鉱石も、すべての存在を巡る“命の糸”が、絡まりつつあるんです。」
クラリスが目を細めた。
「魔脈を……感じ取れるのですか?」
「はい。私の目は、“鑑定”そのものです。」
アリアは手をかざす――
しかし、そこに道具も呪具もない。
ただ彼女が意識を向けた瞬間、淡い光が周囲に広がる。
「たとえば……あなた。」
アリアはクラリスを見つめた。
「名前、クラリス・ヴァレンティナ。
七輝将・月の剣ルナブレイド。
属性:月光・霜。感情状態……“静謐な忠義”。」
クラリスの目が見開かれる。
「……何も、渡していませんよ?」
「必要ありません。」
アリアは穏やかに笑った。
「私の目は、見るだけで“真を知る”のです。」
驚く一行の前で、彼女は視線をノエルへ向けた。
「そして――あなた。」
空気が一変した。
淡い光が一瞬にして白炎のように広がり、風が巻き起こる。
アリアは息を呑み、瞳を見開いた。
「……あなたの魂……時の檻を超えて……
不老不死の加護、そして剣聖と賢者――二つの系譜が重なっている……!」
セリオが思わず叫ぶ。
「すごいっ! 本当に何でもわかっちゃうんですね!」
クラリスが一歩前に出て、少し緊張した声で問う。
「……あなたはそれほどの力を、どうやって身につけたのです?」
アリアは静かに答える。
「フェンリスの血には、“真理を映す眼”が宿ります。
ですが、私は特に強くそれを受け継いだらしく――
生きとし生けるもの、物質、魔力、亜人種……
触れずとも、“存在の構造”を見てしまうんです。」
ノエルはしばし黙し、やがて静かに言った。
「その目は祝福か、呪いか。」
アリアの表情にわずかな陰が落ちる。
「……後者でしょうね。
“真実”は人を救うこともあれば、壊すこともある。
けれど、それでも私は、この国の歪みを正したいんです。」
セリオが前に出て、にっこりと笑った。
「だったら、僕たちと行きましょうよ!
だってアリアさん、あのとき僕に言いましたよね――
“導く光を持ってる”って!」
クラリスが一瞬口を開きかけたが、ノエルが先に言葉を発した。
「……旅は危険だ。命を懸ける覚悟が要る。」
「覚悟は、あります。」アリアは迷いなく答えた。
「この目が、“光の聖樹”の異変に繋がっている気がしてなりません。
それを確かめたいのです。」
沈黙ののち、ノエルは頷いた。
「――いいだろう。同行を許す。」
クラリスがほっと息を吐く。
「本当に……大丈夫なんですか、旦那様?」
「彼女がいれば、真実は早く見つかる。」
セリオは両手を上げて喜んだ。
「やったぁ! 仲間が増えたぁ!」
アリアは柔らかく笑い、胸に手を当てる。
「ありがとうございます。
これより、“鑑定士アリア・フェンリス”、旅の記録に名を刻みます。」
その時、遠くの地平線に黒い雲が立ち上がった。
東の森の方向――まるで“呼ぶように”。
ノエルは視線を向け、低く呟いた。
「……どうやら、聖樹も眠ってはいないらしい。」
そして彼らの新たな旅が始まる。
光と影、そして“真を視る眼”が交わる




