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不死王レオンとアルヴィス王国物語  作者: スガヒロ
第二章 氷冠の再誓(ひょうかんのさいせい)

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避難民の灯 ― 鑑定士アリアとの出会い

王都アルシオンの南門外。

春を迎えるはずの大地には、緑ではなく灰色の影が広がっていた。

腐食した土、枯れた畑、そして寄り添うように並ぶ粗末なテントの群れ。

そこには、瘴気に汚染された辺境から逃げてきた人々が身を寄せていた。


風に混じって、焦げた草の匂いと焚き火の煙が漂う。

その中を、ノエル(=レオン)一行がゆっくりと歩いていた。

彼の隣にはクラリスが立ち、避難民の記録を取る文官たちへ的確に指示を飛ばしている。


「医療班は西側へ。

 食料配布は子どもと老人を優先――手が足りないなら、王都の教会にも要請を。」

「了解しました、クラリス様!」


クラリスは視線を巡らせ、表情を曇らせた。

「……これが“影晶”の影響。

 辺境の地が腐っていくにつれ、王都まで届き始めているわね。」


ノエルが頷く。

「人々の避難は正しい。だが、彼らが戻れる日はまだ遠い。」

「旦那様……王国は本当に持ちこたえられるのでしょうか。」

「持たせるさ。――我らが見ている限りは。」


その時、後方で慌てた声が響いた。


「うわぁぁっ! ま、待ってくださいぃ! 置いていかないでぇぇ!」


セリオが慌てて荷車を引きずりながら走ってきた。

案の定、荷物の山に足を取られて派手に転倒する。

「ぎゃあぁっ! い、痛たた……!」


クラリスがため息をつく。

「もう……だから言ったでしょう、積みすぎだって。」

「だ、だって避難民の人たちに少しでも……と思って……!」


ノエルが口元に微笑を浮かべる。

「なら、せめて倒れずに届けることだ。」


「は、はいぃ……!」

セリオが立ち上がり、荷を抱え直す――が、その拍子に道を外れてしまった。


「え? あれ、み、みんなは……? ……あれぇぇぇ!」


気づけば、群衆の流れの中で完全にはぐれてしまっていた。



---



人々の喧噪が遠ざかり、夕暮れの影が落ちる。

セリオは途方に暮れながらも、荷物を抱えたまま丘の下へ降りていった。


そこで――彼は見た。


簡素な布張りの天幕。

その前に、少女が一人、木箱の上に腰掛けていた。

金の髪を束ね、瞳は澄んだ水のように青い。

白衣の袖をまくり、手元では小さな水晶板が淡く光を放っている。


「え、えっと……すみませぇん! 迷子になっちゃって……!」


少女は顔を上げた。

驚いたように目を瞬かせ、そしてふっと微笑む。


「あなた……王都の方ですね?

 服の埃がまだ乾いていない――現地から来たばかりでしょう。」


「え、は、はいっ! あの、どうしてわかったんですか!?」


少女は小さな板を傾けた。

光がセリオの胸元を照らし、淡い紋が浮かび上がる。


「……見えるんです。

 “光脈”――人の魂の流れを。」


「ひゃあっ!? な、なんですかそれぇ!?」

「ふふ。驚かせてしまいましたね。」


少女は優しく微笑み、胸に手を当てた。


「私はアリア・フェンリス。王都の鑑定士です。

 この避難所で、病人や負傷者の“魔脈”を診ています。」


「鑑定士……!」

セリオの目が輝いた。

「すごいですねぇ! なんか神秘的ですっ! 僕、ただの事務係ですけど!」


「事務係、ですか?」

アリアが少し首を傾げた。

「けれど……不思議ですね。あなたの“光脈”には――他人とは違う波があります。」


「え、えぇ!? 病気ですか!?」

「いえ、そうではなく……未来を“映す”ような……」


アリアは一瞬、言葉を止めて、目を細めた。

「……まるで、予言者のような……そんな流れ。」


セリオは固まった。

「よ、予言者ぁ!? 僕がですか!? ちょ、ちょっと待ってください、そんなカッコいい肩書、聞いたことないですぅぅ!」


「ふふ、落ち着いてください。

 未来は一つではありません。あなたが選ぶ道によって変わる。

 でも――“誰かを導く光”が、あなたの中にある。」


セリオは頬を赤くして頭をかいた。

「ぼ、僕に……そんな光が……あるんですかねぇ……?」


「あります。」

アリアの声は確信に満ちていた。


その瞬間、遠くからクラリスの声が響いた。

「セリオ! どこに行ったの!」


「ひぃっ! 見つかっちゃった!」

セリオは慌てて頭を下げる。

「す、すみませんアリアさん! また絶対来ますからぁ!」


アリアはくすりと笑った。

「ふふ、ええ。

 その時は“予言者”としてのあなたを、もう一度見せてくださいね。」


セリオは顔を真っ赤にしながら走り去っていった。

夕陽の中、アリアはそっと呟いた。


「……運命の輪が、また一つ動き出した。」


彼女の瞳には、遠くで輝く王都の塔の光が映っていた。



---

いつもありがとうございます。また明日更新します。

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