黒の牢獄 ― 忠義の残響2
……闇の中で、水滴が落ちる音が響いていた。
その音は、まるで時の針が止まらないことを告げるかのように、規則正しく石床を打っていた。
冷たい空気。鉄と血の匂い。
ゲルハルト・ヴァーンは鎖につながれた腕をゆっくりと引き上げ、息を荒げた。
「……まだ……生きているか……」
意識は朦朧とし、視界の端で魔法陣の光が青く脈動している。
その中に“影導師アゼル”の姿はもうない。
先ほどまでの尋問と嘲笑の余韻だけが、この空間に残っていた。
――殿下が……罠に……。
ゲルハルトの心臓が痛む。
このままではダリオスが、教団の罠に嵌り、命を落とす。
(……せめて、知らせねば……!)
鎖を引きちぎろうとした瞬間――。
地響き。
地下全体が震えた。
石壁が軋み、天井から砂が落ちる。
「……何だ……?」
次の瞬間、轟音と共に鉄扉が吹き飛んだ。
炎と煙、そして――見慣れた黒鉄の槍の影。
「副官殿ッ! ご無事ですかッ!」
「黒槍……!? 貴様ら……!」
煤と血にまみれた兵士たちが駆け込み、鎖を断ち切った。
彼らの鎧には、黒槍騎団の紋章が刻まれている。
「教団の奴ら、壊滅です! 今夜、殿下の命により先行突入しました!」
「な……今夜、だと……? 三日後では……!」
兵士が首を振る。
「いえ、密偵の報告で“今夜幹部が集う”と! 急ぎ出陣したのです!」
ゲルハルトの胸が熱くなる。
(……殿下。やはり、動かれたのか。)
「生き残りは……!」
「ほとんどいません。幹部も、信徒も全滅です。
ただ、一人……外に出ていた幹部が戻る前に……」
――その時。
地上の方から、地鳴りのような爆音が響いた。
遅れて炎が吹き上がり、天井の石が崩れ落ちる。
「引けッ! ここは崩れるぞ!」
ゲルハルトは兵士たちを促し、出口へ走る。
だが、振り返った最後の視界に、燃え尽きた祭壇と影晶の残骸が映った。
(……殿下、どうか……ご無事で……!)




