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不死王レオンとアルヴィス王国物語  作者: スガヒロ
第一章 英雄の血脈 ― 光と影の再会

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帰路 ― 英雄の記憶と、穏やかな微笑み

朝霧が晴れ、山の稜線の向こうから光が差し始めていた。

崩れた古代神殿を離れ、王都へ戻る道を四人が歩いている。

先頭はノエル――その後ろにクラリス、イリス、そして荷を背負ったセリオの姿があった。


道は緩やかに下り、風には青草の香りが混じる。

それは戦いを終えた者たちに与えられた、束の間の静寂だった。



---



「や、やっと終わったぁぁぁ……!」

セリオが両腕を天に突き上げ、崩れかけた荷袋を落としかける。

「瘴気も化け物も儀式も……もう一生分やりましたよぉ!

 僕、王都に帰ったら畑でも耕して、平和に暮らしますぅ!」


クラリスがくすりと笑い、横目で見やる。

「……前も同じこと言ってたわよね。“次こそ真面目に暮らしますぅ”って。」


「そ、それは心のリハーサルです! 本番はこれからですってば!」

「そう。で、本番の前に荷物を落とすのはリハーサルじゃないの?」


セリオが慌てて背中の袋を掴む。

「ひぃっ、クラリスさんのツッコミは心臓に悪いですぅ!」

「悪いのは荷物の持ち方よ。……まったく、旦那様の荷物より自分の腰を守りなさい。」


「だ、旦那様の分も持たされてるんですよぉ!? もう少し労ってくれても……!」

クラリスは小さくため息をつき、しかし口元には笑みを浮かべた。

「いいわ。帰ったら、ご褒美に紅茶を淹れてあげる。」


「ほ、ほんとですか!?」

「ええ。ただし――片付けと洗濯もあなたの仕事。」

「……地獄は続くんですねぇ……。」


「現実ってそういうものよ、セリオ。」

クラリスはそう言いながら、淡い笑みを浮かべる。

朝の風が吹き抜け、彼女の髪を揺らした。

その横顔に、セリオは思わず立ち止まって見入る。


「……クラリスさんって、時々こわいけど、なんか優しいですよね。」

「“時々”は余計よ。」

「い、いや、褒めてます! 本気で!」


クラリスは肩をすくめて前を向いた。

「褒め言葉として受け取っておくわ。……さ、足を止めないで。旦那様を待たせると、また仕事が増えるわよ。」

「そ、そんなぁぁぁぁ!」


その叫びに、先を歩くノエルが小さく笑みを漏らす。

道の先には、王都アルシオンの白い城壁が遠くに見えていた。

長い戦いの終わりを告げる光が、山の向こうから静かに差し込む。




---


イリスがそんな二人を見ながら、柔らかく微笑んだ。

「ふふ……本当に仲が良いのですね。

 旅の中でも、こんなに穏やかな空気を感じたのは久しぶりです。」


ノエルが振り返り、穏やかな声で答える。

「そう見えるかもしれないが――クラリスとセリオは、まだ出会って日が浅いんだ。

 けれど、口のやり取りだけはもう長年の知り合いみたいだな。」


クラリスが軽くため息をつき、口を尖らせる。

「旦那様、それは“褒め言葉”として受け取っておきますね。」


セリオが慌てて手を振る。

「ぼ、僕は悪気なんてないですよぉ!? ただちょっと怖いだけで!」

「“ちょっと”の基準を見直したほうがいいわね。」

クラリスの冷静なツッコミに、イリスが思わず笑みをこぼす。


「旦那様……とお呼びするのですね?」

イリスが小首を傾げる。


クラリスは姿勢を正し、落ち着いた口調で答えた。

「はい。私はノエル様のメイドであり、護衛も務めております。

 昔から“旦那様”とお呼びしているんですよ。」


「メイドさん……でも剣も使えるなんて、すごいです。」

「旦那様のそばに立つなら、戦うくらいは当然です。」


クラリスはそう言って微笑み、短剣をくるりと回して鞘に戻した。

その仕草に、イリスの目が少し見惚れる。


セリオが肩をすくめて小声でつぶやく。

「はぁ……やっぱり僕、この旅で白髪になりそうですぅ……。」

「白髪になっても働いてもらうわ。見た目より根性が大事だから。」

「ひぃぃ……クラリスさんの笑顔が一番怖いですぅ!」


ノエルが小さく笑い、朝の風が三人の間を通り抜けた。

その先に見える王都の白い塔が、穏やかに光を受けていた。




---


やがて小高い丘に差し掛かり、

遠くの霧の彼方に王都の塔が霞んで見えた。


セリオが大声を上げる。

「うわぁぁぁっ! 王都ですよぉ! 本当に帰れるんだぁぁ!」

クラリスが笑いながら言う。

「生きて帰れるだけでも上出来ね。ほら、足元、気をつけて。」


そんな中、イリスは少し歩調を緩め、

前を行くノエルの背を見つめながら小さく口を開いた。


「……ノエル様。」

「どうした?」

「神殿で……あなたが私の前に立ったとき、まるで――時間が止まったように感じました。

 初めてのはずなのに……“あの光景”を、どこかで見たことがある気がして。」


ノエルの表情がわずかに曇る。

「どこかで……?」


イリスは胸に手を当て、目を伏せた。

「ええ。

 誰かが――私を庇って、黒い鎖の中で剣を振るって……。

 その姿が、あなたと重なったんです。」


風が静まり、鳥の声も消えた。


クラリスが静かに口を開く。

「それは、“血の記憶”かもしれません。

 イリス様のご家系には、“英雄セリア”という名が伝わっていましたね。

 古の悪魔王討伐に参加した――光の剣を掲げた女性の英雄です。」


イリスがはっとして顔を上げる。

「セリア……!おとぎ話ではないのですね……」


ノエルが足を止めた。

霧の中で、その横顔がかすかな光に照らされる。

「物語ではない。……彼女は確かにいた。

 誰よりも勇敢で、誰よりも人を愛した――剣聖セリア。」


イリスの胸が強く脈打つ。

「……ノエル様。

 まるで……あなたが“あの時”を知っているみたいな言い方をされますね。」


ノエルは答えず、ただ前を見つめた。

風が彼の外套を揺らす。


「……セリアは、私の命を救った。

 彼女の光がなければ、私は“闇の鎖”に呑まれていた。

 それが――すべての始まりだった。」


イリスは息をのむ。

そして、理解が静かに胸を打つ。


「……あなたが……“不死王レオン”なのですか。」


ノエルの足が止まる。

クラリスは何も言わず、その背を見守っていた。


長い沈黙ののち、ノエルは微かに微笑んだ。

「……その名を、まだ覚えている人がいるとはな。」


イリスの瞳に涙が滲む。

「祖先の書にありました。

 “王は死せず、時を越えて国を見守る”――

 それがただの伝説ではなく、本当に……。」


ノエルは静かにうなずいた。

「時は流れ、国は変わり、人も変わる。

 だが……“想い”は、確かに残る。

 それがあの時、彼女が遺した光だ。」


イリスは小さく息を詰め、微笑んだ。

「きっと……祖先セリアも、今のあなたを見て誇りに思っています。」


ノエルは少しだけ空を見上げた。

そこには、薄く晴れ始めた青がのぞいていた。


「……どうだろうな。

 私はあの時から、ただこの国を見続けてきただけだ。

 守るために生き、そして……永遠に見送るために。」


クラリスがそっと言葉を添える。

「旦那様……。」


ノエルは振り返り、柔らかく笑った。

「大丈夫だ。少し懐かしくなっただけだ。」


イリスはその笑みを見て、胸の奥に温かな痛みを覚えた。

どこか切なく、けれど懐かしい――まるで遠い夢の続きを見ているような気持ちで。


丘を越える風が三人の間を通り抜け、

その先に広がる王都の塔が朝日に輝いた。


それは、失われた時をつなぐように――

英雄の記憶と、不死の王の誓いを照らしていた。




---


丘を下る途中、セリオが両手を広げて叫ぶ。

「王都に帰ったら、僕ぜったいお風呂に入って、肉を食べて、寝ますぅぅぅ!」

クラリスが吹き出した。

「その順番、間違えないようにね。」

ノエルが肩をすくめ、

「お前の元気だけは不死身だな。」

イリスが笑う。

「ふふっ……本当に賑やかですね。」


穏やかな笑い声が、風に流れた。

戦いの終わり、そして新しい旅路の始まり――

四人の影は、王都へと続く道の上でゆっくりと伸びていった。



いつもありがとうございます。また明日更新します。よろしくお願いします。

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