王都防衛 ― 城を傷つけぬ覚悟
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王城・作戦室。
外は夜の闇が深まり、空を裂くような瘴気の風が吹き抜けていた。
その中で、王都の防衛を担う者たちが集う。
宰相オルヴィン、学匠卿フェルディナンド、魔女モルガーナ、七輝将《鉄壁》ガルド、
そして七星騎士団“暁星”のオルフェ――。
彼らの前には、地図と魔導計測器、そして青白く脈打つ王都結界の魔力線が広がっていた。
オルヴィンが静かに杖を叩く。
「……北西山岳より、巨大な瘴気反応。すでに瘴気の波が王都外郭に接触した。
確認されたのは――“三首蛇”の一体だ。」
部屋の空気が一気に引き締まる。
フェルディナンドが眼鏡越しに計測器を覗き込み、低く唸る。
「間違いありません。この魔力波は以前記録された“影晶”のそれと一致します。
三首蛇……つまり、“影の主”の眷属の一つが、王都へ向かっています。」
モルガーナが唇を噛み、目を細めた。
「……山を越えてくるなんて。瘴気の塊が、こんな短時間で……。
どうやら辺境の戦が終わったわけではなさそうね。」
ガルドがゆっくりと立ち上がる。
その動作一つで、床板が軋むほどの存在感を放った。
「瘴気の蛇が一体……なら、迎え撃つのは好機だ。
だが王都の中で暴れられれば、被害は計り知れん。
――外で止める。城に一片の傷もつけん。」
オルフェが軽く腕を回し、淡々と応じた。
「俺の“暁星”も出る。」
オルヴィンが地図上に指を走らせる。
「三首蛇は北西街道を抜け、真っすぐ王都へ向かっている。
結界との交差点は“灰の丘”――王都外壁から半刻の距離だ。
ここで迎撃する。だが王都側には一切炎を向けてはならぬ。」
フェルディナンドが即座に補足する。
「瘴気の流路は現在、魔術師団で封じ込めています。
私とモルガーナ殿の術式で“王都上空への瘴気流入”を遮断できます。
ただし、戦闘が長引けば流路が飽和し、結界に干渉する危険がある。」
モルガーナが杖を握り、冷静に言葉を重ねた。
「魔導師団を三隊に分けるわ。
一隊は流路の凍結、二隊目は蛇の魔核の探知、三隊目は浄化支援。
王都上空での爆裂魔法は禁止。あくまで“外”で焼き尽くす。」
ガルドがうなずく。
「地上は我が隊が受け持とう。
外郭三層に陣を構え、兵を分散させる。
奴の尾が触れた瞬間、槍陣を崩して“瘴気流”を断つ。
私の命令なくして一歩たりとも退くな。――王都を背に立て。」
オルフェが口笛を吹く。
「いいね。こっちは“頭”を狙う。」
フェルディナンドが指を鳴らし、机の上に小さな結晶を置いた。
「これを使ってください。局所的に瘴気を吸着する補助器です。
扱いを誤れば爆ぜますが……あなた方なら使いこなせるでしょう。」
モルガーナがそれを受け取り、静かに頷く。
「……外で終わらせる。王都に一滴の瘴気も入れさせない。」
ガルドは剣を腰に下げ、重い声で締めくくった。
「王都を護る盾とは、決して城壁のことではない。
この手で守る者の覚悟こそが“盾”だ。――我らが踏み止まる。」
オルヴィンは短く命を下す。
「――全軍、迎撃態勢。
王都に“炎の影”を通すな。王の都を焦がすことは、我らの敗北と心得よ。」
扉が開き、伝令が駆け込む。
「報告! 三首蛇、北西丘陵にて視認! 翼なし、だが地を這いながらこちらへ向かっています!」
「来たか……」
ガルドが呟き、重い足取りで部屋を出る。
その背を見送りながら、モルガーナは静かに祈りの言葉を呟いた。
「――どうか、光が消えぬように。」
外では、赤黒い雲が裂け、遠くに三つの咆哮が響く。
その声は、まるで“影の主”の代弁のように、王都全域を震わせていた。
それでも、城壁の上には怯えの影はなかった。
そこに立つ者たちは皆、ただ一つの誓いを胸にしていた。
――「城を、焦がさぬ。」
――「民を、失わせぬ。」
王都の防衛戦が、いま静かに始まろうとしていた。




