交わらぬ光 ― 怯える予兆
以前更新したものをかなり変更しました。よろしくお願いします。あとこのエピソード少し変更しました。
夜明け前。
北西山岳の空はまだ夜の帳に包まれ、霧が深く垂れこめていた。
崩れた岩壁の上に、三つの影が立っている。
古代神殿まであと数里。瘴気の流れが目に見えるほど濃くなっていた。
クラリスが息を詰めて辺りを見渡す。
「……ここまで来ると、空気が重いわね。
肺が焼けるみたい。」
レオンは霧の向こうを見据え、低く答える。
「影晶の波動が近い。……神殿は、すぐそこだ。」
そのとき、セリオが突然しゃがみ込み、両手で頭を押さえた。
「う、うわぁぁ……ま、また来ましたぁぁ……! これ絶対、やばいやつですぅ……!」
クラリスがあきれたように肩をすくめる。
「また“予兆”? 昨日も寝言で“黒いカエルがしゃべってた”って言ってたわよね。」
「ち、違うんですぅ! 今度は本物ですって! 頭の中に、でっかいのがドーンって!」
セリオは半泣きで空を指差す。
「黒い渦と赤い炎がぶつかって、その真ん中から、ひぃぃぃぃっ……!」
「落ち着け、セリオ。」
レオンが低く制し、鋭い視線を向ける。
「何が見えた?」
セリオはガタガタと震えながら、息を詰めて言った。
「み、三つの首を持つ巨大な蛇……!」
クラリスの目が見開かれる。
「……三首蛇? そんなの、伝承でしか聞いたことない……。」
レオンも険しい表情になる。
「古文書にあった“影の守護獣”か……。
悪魔王が封じられる前、儀式の守りとして生まれたという――ただの神話だと思っていたが。」
セリオは顔を青くしながら叫ぶ。
「神話が出てきたらどうするんですかぁぁ!? 僕、もう帰って畑でも耕したいですぅぅぅ!」
クラリスが吹き出す。
「災厄級の魔物を前にして畑の話って、逆に尊敬するわ。」
「ひ、皮肉はやめてくださいぃぃ!」
レオンはそんなやり取りを無視し、霧の奥に視線を投げた。
「セリオ、その蛇……どこで現れる?」
セリオは震える指で西の空を指差す。
「こ、ここじゃなくて……もっと遠くです。
王都の方角! そこに……二つの影がぶつかって、蛇が生まれようとしてますぅ!」
クラリスが息を呑む。
「二つの影……ダリオスと、教団。」
レオンの表情が硬くなる。
「……ついに、ぶつかったか。」
セリオが情けない声で訴える。
「ど、どうしますか旦那様ぁ! このままじゃ王都が危ないですよぉぉ!」
「王都には、まだ盾がある。」
レオンは静かに答える。
「フェルディナンド卿、モルガーナ、七輝将ガルド、そして七星騎士団“暁星”のオルフェ。彼らが結界を守り抜く。」
クラリスが頷く。
「確かに。あの人たちがいれば一夜は耐えられる。
でも、あの二人が上手く連携できれば……の話ですけど。」
レオンは短く息を吐いた。
「そこが問題だな。
七輝将は軍の盾、七星騎士は民の誇り――それぞれが王国の光だが、交わらぬ時もある。」
セリオが弱々しく手を挙げる。
「そ、そんなこと言ってる場合ですかぁ……? 蛇が空に出たら僕たちごと呑まれますってぇ……!」
クラリスが笑みを浮かべ、軽く肩を叩く。
「心配しなくていいわ、セリオ。呑まれる前に私が首を落とすから。」
「い、いっそ優しく逃がしてほしいですぅぅ!」
レオンが微笑を浮かべながら剣の柄に手を添えた。
「冗談はそこまでだ。……王都はガルドたちに託す。
我らはイリス嬢を救う。今この瞬間に動かなければ――手遅れになる。」
クラリスが小さく頷く。
「了解しました、旦那様。」
セリオは涙目のままも、二人の背に続いた。
「うぅぅ……ほんとに僕、帰ったら髪真っ白ですよぉ……!」
霧の奥に、古代神殿の影が姿を現す。
その瞬間、遠くの空で雷鳴が轟いた。
王都と山岳――二つの地で、運命の戦いが同時に始まりつつあった。
間違いがありましたので修正しました。




