密約の夜 ― 還らぬ誓い
影の儀式の胎動のエピソードから何話か飛ばしてアップしていたため6話くらい削除して、正しい順番で更新し直しています。申し訳ありません。
北西への行軍二日目。
夜の帳が辺境の山道を覆い、辺りは獣の遠吠えだけが響いていた。
辺境軍の野営地では、焚き火の灯が点々と並ぶ。
兵たちは順に休息をとり、誰もが主君の決断を誇りに思っていた。
――だが、その中央の大天幕だけは、異様な静けさを孕んでいた。
厚い布の幕を閉ざし、灯りを最低限に落とす。
テーブルの上には古い羊皮紙と、黒ずんだ結晶の欠片。
その前で、ダリオス辺境伯は腕を組み、沈黙していた。
やがて幕の外から、ひとりの男が足音を忍ばせて入る。
長身の男、金属鎧を半ば脱いだままの副官――ゲルハルト・ヴァーン。
冷静沈着で知られる、辺境軍第二席。
だが、その眼光には軍人らしからぬ“熱”が宿っていた。
「殿下、偵察部隊から報告が。北西山岳の麓、古代神殿の跡地に、教団の残党と思われる集団が潜伏しているとのことです。」
「……そうか。」
ダリオスは低く呟き、指先で結晶をつまむ。
瘴気が微かに立ち上り、紫黒の光が男の頬を照らした。
「追撃は?」
「……すでに命じてあります。ですが、殿下、本当に――追うのですか?」
その問いには、軍人としての疑念がにじんでいた。
ダリオスはゆっくりと笑う。
焔の光に照らされた横顔は、静かに狂気を孕んでいる。
「教団は捨て駒だ。だが“影晶”は捨てるには惜しい。
あれを完全に制御できれば――王都の結界すら、我が意のままになる。」
「……やはり、殿下は教団と……」
ゲルハルトの声が震える。
ダリオスはそれを一瞥し、冷たく言い放った。
「違う。利用しているだけだ。
奴らは王都を滅ぼすために“影”を呼ぶ。
だが、我はそれを“新たな王国の力”に変えるのだ。」
ダリオスの指先から瘴気が滴り落ち、地面を焦がす。
黒い煙がゆらりと立ちのぼり、天幕内に不穏な気配が満ちていく。
「不死王レオンが復活した……そう噂が立っているな。」
「ええ。」
「愚か者どもが。あの亡霊の帰還こそ、王国の終焉を意味する。不死をもって王たらんとした時代は、もう終わりだ。
今度の王は、“生者の血”をもって影を支配する者だ。」
そう言って、彼は指輪を外す。
その内側には――黒い教団の紋章が刻まれていた。
ゲルハルトは一瞬、息を呑む。
しかし次の瞬間、跪いて頭を垂れた。
「……殿下の覇業。必ずや、我らが支えます。」
「よい。ならば、“影の供物”の確保を最優先とせよ。
――奴らの儀式を奪い、我がものとするのだ。」
「はっ……!」
天幕の外で風がうなり、焚き火が大きく揺れた。
その炎の奥、誰にも見えぬ闇の中で、
黒い影がひとつ――不気味に蠢いた。
それはまるで、ダリオスの背後に新たな“王の影”が生まれたかのようだった。
いつもありがとうございます。
順番間違えて申し訳ありません。まだ間違える可能性もありますが、ここから以前載せていた削除したエピソードとまだ載せていないエピソードが更新されると思います。これからも
よろしくお願いします




