辺境軍出立 ― 黒き誇りの行進
影の儀式の胎動のエピソードから何話か飛ばしてアップしていたため6話くらい削除して、正しい順番で更新し直しています。申し訳ありません。
王都アルシオンを包む夜霧が、ゆるやかに晴れていく。
円卓会議を終えたばかりの白亜の城から、一人の男が無言で歩み去った。
――辺境伯ダリオス・ヴァルクレスト。
その歩みは重く、しかし迷いはなかった。
王都の南門前、すでに彼の私兵団が列をなして待機している。
銀と黒の甲冑に身を包んだ兵たちが、辺境軍特有の重装槍を手に、整然と並ぶ。
冷たい朝風が吹き抜け、軍旗の双頭鷲がはためいた。
やがて、ダリオスが壇上に上がる。
彼の声が響いた瞬間、場の空気が引き締まる。
「宰相オルヴィン殿の命を受け、我ら辺境軍は北西山岳の調査に向かう。
影の教団が我が領に巣食うなど――断じてあり得ん!
我らが剣で、その疑いを斬り捨て、王国の誇りを取り戻す!」
兵たちは一斉に槍を掲げた。
「おおおおおお――ッ!」
その声は夜明けの空を震わせる。
彼らにとって、ダリオスは忠義と武勇の象徴。
辺境の厳しい地をまとめあげ、王国の西を守り続けた“鉄壁の領主”そのものだった。
しかし――壇上の男の瞳には、別の光が宿っていた。
(……ふん。まさか、オルヴィンの策に踊らされるとはな。)
(だがいい。疑いを受けた今こそ、逆に“主導権”を握る好機だ。)
彼の脳裏には、密かに送られた一通の暗号文が浮かぶ。
それは“黒衣の同盟者”からの返答だった。
――「儀式は一時中断。だが“供物”は確保済み。北西にて、“第二段階”を始動す。」
口元に、薄く笑みが浮かぶ。
(よかろう。ならば――我が手で、あの地を“浄化”してみせよう。
誰の手も届かぬ“新たな秩序”としてな。)
彼は軽く右手を挙げる。
合図とともに、軍勢の列が動き出す。
鎧の金属音が響き、砂塵が立ちのぼる。
太陽がまだ昇りきらぬ空の下、
辺境軍三千の兵が、黒き波のように王都を離れていった。




