:二首蛇の残滓
影の儀式の胎動のエピソードから何話か飛ばしてアップしていたため6話くらい削除して、正しい順番で更新し直しています。申し訳ありません。
瘴気を吐き散らす二首蛇が、狂ったように地をのたうった。
その咆哮は耳を裂き、地面を割り、街道を守る兵たちすら震え上がらせる。
「来るぞ!」
レオンの声に応じ、クラリスが一歩踏み出した。
「――月華流舞・白鶴の舞!」
月光を思わせる剣閃が舞い踊る。
風のような身のこなしで蛇の左首へと駆け上がり、鶴の羽ばたきのように鋭い斬撃を浴びせかける。
甲高い悲鳴と共に片方の首が崩れ落ち、瘴気が黒い霧となって空へと散った。
「よし……!」
クラリスが着地した瞬間、残る右首が怒り狂ったように襲いかかる。
だが、その動きは一瞬、静止したかのように見えた。
「……終わりだ。」
レオンが剣を掲げ、蒼光を帯びた一閃を放つ。
音すら遅れて追いつくほどの速さ――。
光の刃が闇を裂き、右首ごと蛇の巨体を真っ二つに断ち切った。
轟音と共に影晶の肉体が砕け散り、黒い残滓が風に溶けて消えていく。
戦場には静寂が戻った。
「ひ、ひぃ……な、なんで……なんでこんなにあっさり……」
腰を抜かしたままのセリオが、震える手で額を拭う。
「い、命がいくつあっても足りませんよぉ……! 僕、この旅で白髪になるんじゃ……!」
クラリスがくすりと笑い、剣を収める。
「安心して、セリオ。白髪でも似合うと思うわ。」
「褒めてる場合ですかぁぁ!」
そのやり取りの横で、レオンは蛇の死骸が残したものに目を留めていた。
黒い瘴気が晴れた地面には、結晶の欠片と共に布で包まれた小さな木箱が転がっている。
彼が拾い上げると、中には粗雑な羊皮紙が収められていた。
広げられたのは、北西山岳地帯を示す地図――その中でも「古代神殿跡」と赤い印で囲まれた場所が強調されていた。
さらに、呪符の束には辺境軍の兵站印が押されている。
クラリスが眉をひそめる。
「……辺境軍の印? つまり、これは……」
「偽装兵どもは、やはりただの野盗ではなかった。」
レオンは低く言い放つ。
「――影の教団と、辺境伯ダリオス陣営。その繋がりが濃厚になったな。」
セリオは真っ青になりながらも、地図を指差した。
「そ、そこ……ぼ、僕が見た“黒い月の影”の場所と……同じです……!」
レオンは瞳を細め、羊皮紙を懐に収める。
「ならば行くしかない。……この先に、イリス嬢の囚われの地がある。」
街道に吹く風が冷たくなり、三人の影を伸ばしていった。
運命の道筋は、確実に“北西の古代神殿”へと導かれている。




