影に紛れた兵
影の儀式の胎動のエピソードから何話か飛ばしてアップしていたため6話くらい削除して、正しい順番で更新し直しています。申し訳ありません。
王都を発ち数日。
街道を進むレオンたちの馬車は、北西山岳の黒い稜線を遠望する位置まで近づいていた。
風は冷たく、木々はざわめき、昼だというのに空気は薄暗い。
セリオが車内でぶるぶる震えながら声を上げた。
「や、やっぱりいやな感じがしますよぉ……! 絶対なんか出ますって! ねぇ旦那様、引き返しましょうよ!」
クラリスは窓の外を鋭く見据え、口元を引き締める。
「……セリオの嫌な予感は、外れたことがないものね。」
その言葉と同時に――。
街道の先に、人影が揺らめいた。
十数名の武装集団。
鎧に身を包み、一見すると王国兵のように見える。
だがその装備は微妙に異なり、紋章も隠されていた。
御者が小声で言う。
「おかしい……王国兵なら、こんな辺境近くの街道に正規巡回は出ないはずだ……」
レオンは静かに目を細めた。
「――辺境軍の“偽装兵”か。」
兵たちの一人が前に進み出て、槍を突き出す。
「止まれ! この先は通行止めだ!」
クラリスが眉をひそめ、馬車から軽やかに飛び降りた。
「通行止め? ――おかしいですね。王都からは何も布告されていません。」
「黙れ!」と兵が怒鳴る。
「ここを通るなら“通行税”を払ってもらおうか!」
セリオが目をむいて叫んだ。
「で、出たぁぁぁ! 絶対盗賊ですよ! これ偽物兵ですよぉ!」
その瞬間、兵たちが一斉に武器を構えた。
街道の両脇からも黒装束の影が現れ、数十の視線が三人を囲む。
レオンは馬車から降り、外套を翻す。
「……影に紛れ、国の兵を装うとは。姑息な真似を。」
クラリスが剣を抜き、舞うように構える。
「旦那様。ご命令を。」
「――舞え、クラリス。影を斬り払え。」
次の瞬間、街道に鋼の火花が散った。
クラリスの剣舞――月華流舞・断影の一閃が閃き、偽装兵の槍が宙を舞う。
セリオは馬車の中で悲鳴を上げながら頭を抱えた。
「ひぃぃぃ! ほ、本当に死人が出るやつだぁぁぁぁ!」
しかし、彼の視線の先で。
レオンの手に収まる剣が、黒き影を斬り裂き――。
その戦場の只中に、確かな“儀式の匂い”が漂っているのを、セリオは直感していた。




