影の儀式の胎動
地下祭壇 ― 囚われのイリス
湿った石壁と燭台の揺らぐ灯り。
祭壇の中央に鎖で繋がれたイリスは、冷たい石床の上で膝を折っていた。
白い礼装の裾は土埃に汚れ、黄金の髪も乱れている。
だがその瞳だけは、なおも鋭い光を失ってはいなかった。
(……必ず、隙を見つけて抜け出す。父上、そして皆のために……)
イリスは俯いて震えるふりをしながら、耳を澄ます。
石壁の向こうで、教団員たちの会話がはっきりと聞こえてきた。
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「儀式の準備はどこまで進んだ?」
「結晶柱の設置は完了しました。あとは“英雄の血”を媒介に瘴気を解き放つだけです。」
「辺境伯閣下からの使者も来ている。失敗は許されんぞ。」
「フン……奴も焦っているらしい。ワイバーンの件が潰えたからな。」
「だが、次の策は万全だ。英雄の血を穢し、その命を影に還す。
――それこそが“国の象徴を失墜させる”最大の一撃になる。」
「ふん……王都の連中がどれだけ騒ごうと、この儀式さえ成功すれば終わりだ。
アルヴィス王国は“内から崩れる”。」
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(やはり……父上や王都を狙う陰謀……。
しかも……“辺境伯”の名が出た……? 影の教団だけではなく、国内の勢力が……)
イリスの心臓が強く打つ。
けれど、顔には恐怖の仮面を貼りつけ、震える少女を演じ続ける。
(今は動かない……。聞けるだけ、聞いて……必ず、外に伝える……!)
彼女の蒼い瞳は、灯火の奥でかすかに燃え上がった。
それは囚われの姫ではなく、王国を背負う者の強靭な光だった。




