囚われの令嬢
冷たい石壁に囲まれた地下神殿。
燭台の炎が影を長く伸ばし、湿った空気は鉄と血の匂いを含んでいた。
イリスは両手を鎖に繋がれ、儀式の祭壇に座らされていた。
腕を締める鉄環は冷たく、少し動くたびに軋んだ音が響く。
(……ここは……どこ……? 王都から、どれだけ離されたの……?)
耳に飛び込んでくるのは、不気味な詠唱の声。
黒衣の教団員たちが結晶を運び込み、祭壇の周囲に並べていた。
それは脈打つ心臓のように淡い光を放ち、瘴気が空気を揺らす。
「……やはり、彼女でなければならん。」
「セリアの血脈……“英雄の光”は、儀式の核を満たす。」
男たちの声が重なり合う。
イリスは震える指先を必死に握りしめ、冷静さを保とうとした。
(やっぱり……狙いは“英雄の血”……。
私がセリアの末裔だから……利用する気なのね。)
教団の女司祭が歩み寄り、白布で覆われた祭壇の縁を撫でながら口を開いた。
「この娘の血を媒介に、影晶の瘴気は大地に根を張る。
――王都の結界すら、じきに内側から腐り果てるでしょう。」
別の男が声を潜め、囁いた。
「……だが、本当に成功するのか? 教団だけで……」
「心配するな。後ろ盾はある。
――辺境から送られた援助が、それを保証している。」
その一言に、イリスの心臓が強く跳ねた。
(辺境……? どういうこと……?
影の教団だけじゃなく、誰かが裏で動いてる……?)
鎖を引き、身をよじる。だが鉄環はびくともしない。
それでもイリスは必死に耳を澄ませ、一言でも多く情報を拾おうとした。
儀式の準備は刻一刻と進んでいく。
影晶の結晶群が不気味な光を放ち、祭壇を覆う魔法陣がじわじわと赤黒く染まっていった。
イリスは唇を固く結び、胸の奥で決意を固めた。
(……必ず、隙を見つける。
英雄の血を“影”に汚させはしない……!)
彼女の青い瞳に、怯えの奥に燃える強い意志が宿っていた。




