空を裂く蒼光
王都の上空――月明かりの下に、黒い影が蠢いていた。
ワイバーンの群れ、赤黒い瘴気を纏い、炎の咆哮を轟かせながら迫ってくる。
「結界は……まだ持っているな。」
レオンが低く呟き、空を見上げた。
王都の天頂には、淡く輝く幾何学の紋――《浮遊結界》。
かつて三大魔女と王国の魔術師団が築き上げた、天空に張り巡らされた巨大な守護壁だ。
それは王都に炎弾を直接落とすことを防ぎ、今も淡い光でワイバーンの火炎を弾き返していた。
だが――。
「ぐぅっ……! 結界の魔力が削られていく……!」
魔導師団の術者たちが塔の下で呻く。
影晶の瘴気を纏った魔炎は、結界を徐々に蝕み始めていた。
その時、モルガーナが杖を高く掲げる。
「ふふ、こんな玩具ごときに、私たちの結界を壊されてたまるものですか。」
紅蓮の魔方陣が空に浮かび上がり、迸る炎の奔流がワイバーンを焼き払う。
続いて弟子のリネアが興奮気味に叫ぶ。
「わ、わたしもやります! 《雷針乱舞》!」
無数の雷光が降り注ぎ、ワイバーンの翼を貫いた。
もう一人の怯えるメイリアは震えながらも必死に詠唱する。
「……ひ、光よ……《癒光の帳》……!」
結界のひび割れを覆うように、柔らかな光が編まれていく。
「やるじゃない。」
モルガーナが笑い、弟子たちに背を預ける。
「未来は、ちゃんと受け継がれているわね。」
その間に、数匹のワイバーンが突破し、王都の塔の影に迫った。
クラリスが細剣を抜き、月光を映した瞳を輝かせる。
「――舞うは月華、断つは影。
《月華流舞・断影の一閃》!」
白刃が弧を描き、ワイバーンの首を鋭く裂く。
返す一閃で瘴気の翼を切り払い、巨躯を墜とした。
続けて、レオンが蒼光を纏った剣を掲げる。
「――空を乱すもの、ただ斬り伏せるのみ。」
一歩、空気を踏みしめるように跳躍。
放たれた斬撃は蒼い閃光となり、群れの中心を一閃で貫いた。
轟音と共に、数匹のワイバーンが夜空から墜ちていく。
炎と瘴気は掻き消え、王都の空は静寂を取り戻した。
――塔の上。
フェルディナンド卿は杖を抱きしめるように握り、頬を紅潮させていた。
「おお……! これぞ伝説! これぞ不死王と暁の魔女の力!
まさか、我が生きているうちに……この目で見られるとは!」
魔導師団員たちが呆気に取られる中、ただ一人、彼の声だけが熱狂を帯びて夜に響き渡った。
レオンは剣を収め、静かに呟く。
「……これは序章に過ぎぬ。本当の影は、まだ潜んでいる。」




