影晶の解析
王立魔導師団・研究塔。
夜更けにも関わらず、魔術灯が煌々と灯り、学匠卿フェルディナンドを中心に十数名の魔導師が結晶を囲んでいた。
テーブルの上には布で包まれていた「黒い結晶の欠片」。
近づくほどに瘴気が漏れ出し、空気が重くなる。
「……やはり尋常ではない。」
フェルディナンド卿は長い杖を突き、呟いた。
「この結晶、ただの魔獣の体組織ではない。外部から“瘴気を凝縮する術式”が刻まれている。」
一人の若い魔導師が慌てて口を挟む。
「外部から……つまり、人為的に造られたものですか?」
フェルディナンドは静かに頷く。
「その通りだ。影の教団――奴らが禁忌の術で魔物に埋め込んだ“増幅器”だろう。
通常の魔獣がここまで巨大化し、瘴気を放つなどあり得ん。」
レオンは腕を組み、無言で聞いていたが、やがて冷ややかに言葉を落とす。
「ならば魔獣は“偶然”ではなく、“仕掛けられた兵器”というわけだ。」
「兵器……」
クラリスが低く繰り返し、瞳を細める。
「つまり、奴らは戦の火種を意図的に王都周辺に撒いているのですね。」
フェルディナンドはさらに結晶を杖で叩き、表面の符号を浮かび上がらせた。
そこには幾何学的な模様と共に――ある紋章が刻まれていた。
「これは……」
クラリスが息を呑む。
「辺境伯家の、軍用紋……?」
フェルディナンドの声が重苦しく響く。
「断定はできん。だが、偶然とは思えぬ。」
沈黙。
セリオが震える声で囁いた。
「や、やっぱり……! 国の中に、裏切り者が……!
ひぃいい! 僕こういうの大嫌いなんですけどぉぉ!!」
クラリスが額を押さえ、苦笑しながら返す。
「あなた、災厄の予言者のくせに、肝心な時は一番うるさいですわね。」
「うるさいってひどい! 僕だって怖いもんは怖いんですよ!」
レオンはそんなやり取りを横目に、ただ一つの結論を口にした。
「……この結晶は“鍵”になる。敵の正体を暴くために。
――オルヴィンに報告せねばならんな。」
揺れる魔術灯の下、黒い結晶はなおも脈動していた。
まるで次の災厄を呼び込むかのように――。




