影の予兆
会談が終わり、重苦しい空気を背にして政務室を出たレオン一行。
石造りの廊下を歩く中、セリオはそわそわと肩を落ち着かせられずにいた。
「うう……やっぱり、辺境伯とか不可解とか、怖い単語ばっかり飛び交ってましたよね……」
「今に始まったことではない。」
レオンは淡々と答えたが、その横顔は深く思索に沈んでいた。
クラリスが振り返り、からかうように笑む。
「セリオ。怯えてばかりでは、旦那様の従者は務まりませんよ?」
「む、務めなくていいです! 僕はただの村の青年です!」
必死に手を振るセリオに、クラリスは肩を竦める。
――その瞬間。
セリオの表情が固まった。
虚ろな瞳が宙を泳ぎ、全身に鳥肌が走る。
「ひ、ひいっ……! 来る……! また、あれが……!」
「……何を見た?」
レオンの声が低く響く。
セリオは震えながら言葉を吐き出した。
「王都の……すぐ外の街道に……どす黒い霧……! 地を這う巨大な影……二つ、三つ……! 獣じゃない、蛇……! 二つの首を持つ蛇が、街道を……!」
クラリスの表情が鋭く変わる。
「二つ首の影蛇……。」
その直後。
「報告!」
扉を蹴破るように兵が駆け込んできた。
「王都西方街道にて、未知の魔物が出現! 二つ首の巨大な蛇と確認されました!」
セリオが悲鳴のような声を上げ、クラリスの背に隠れる。
「ほ、ほらああああっ!! 言ったじゃないですかあああ!!」
クラリスは苦笑を浮かべつつも剣に手を添える。
「……やれやれ。あなたの才は本物のようですね。」
レオンは短く息をつき、瞳に冷たい光を宿した。
「影は、ますます近づいている。――行くぞ。」
廊下に足音が響く。
こうして、王都を守るための新たな戦いが始まろうとしていた。




