宰相の布告
王城の政務室。
重厚な扉が閉ざされ、限られた者のみが集う密議の場に、レオンとクラリス、そしてセリオが通された。
部屋の中央では宰相代理オルヴィンが立ち、整えられた口髭の下から冷徹な声音を響かせていた。
「よく来てくれた。お前たちには知っておいてもらいたい。我が布告の内容をな。」
卓上に広げられた羊皮紙には、すでに宰相の署名が記されている。
オルヴィンは杖を軽く鳴らし、一つずつ指示を読み上げた。
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王都三重防衛の布告
「――王都の門、広場、主要街路に兵を配置せよ。
商人たちには一時的な制限を課すが、民心を守ることが最優先だ。」
クラリスが小さく眉を寄せた。
「兵を街路に? 確かに安全は高まりますが、民の不安は……」
「不安など、光の下にあれば薄れる。」
オルヴィンは一刀両断に言い放った。
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影晶の調査隊の結成
「学匠卿フェルディナンドに命ず。王立魔導師団を動員し、即刻、影晶の性質を解析せよ。報告は私のもとへ直接上げること。」
レオンは黙って腰の袋を差し出した。
黒布に包まれた結晶が机に置かれると、空気がわずかに軋む。
「これも解析に回せ。」
「承知しました。」控えていた文官が震える手で受け取る。
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辺境支援の約定
「ダリオス辺境伯の領地に追加兵糧を送る。
ただし代わりに、辺境軍の精鋭を百騎、王都防衛に差し出させよ。」
この言葉にレオンの瞳がわずかに光った。
(……辺境に支援を送ると同時に、兵を王都へ? まるで“内と外の両方”を抑える動きだな。)
クラリスも薄く笑みを浮かべ、囁いた。
「……百騎。辺境伯が素直に出すでしょうか。」
セリオは青ざめ、震える声をあげた。
「ひ、百騎って……そんなん出されたら、辺境が逆にスッカスカになって……わーっ、やばい未来が見える!」
「落ち着け、セリオ。」
クラリスが肩を叩いたが、彼は「いやいや絶対やばいですって!」と半泣きだった。
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商業の安定化
「リカルド・ローズマインに命ず。市場を混乱させるな。
兵糧と生活必需品の流通を維持する責任を負え。必要な補助金は王庫から出す。」
セリオは思わず口を挟んだ。
「補助金! 僕も欲しいです!」
「黙れ。」
オルヴィンとクラリスの声がぴたりと重なり、青年は涙目で縮こまった。
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オルヴィンは視線を全員に走らせ、低く結論を告げた。
「――以上が布告だ。だが、これで全てが解決するわけではない。」
卓上の地図に手を置き、赤い印を指で叩く。
「影の教団は今も動いている。そして……辺境の一部に、不可解な動きがある。」
レオンの瞳がわずかに鋭さを増す。
「不可解、か。……何を意味する?」
「まだ言えぬ。だが証は必ず掴む。」
オルヴィンの瞳が、硬質な光を帯びていた。
セリオは小声で呟く。
「不可解って……絶対なんか裏切りの匂いしますよね……? 僕もう怖いんですけど……」
クラリスが苦笑して言う。
「なら、怯えている間に役立つ予言でもしてちょうだい。」
「そ、そんな軽く言わないでぇぇ!」
そのやり取りの中でも、レオンはただ静かに思案していた。
(……やはり、影は一つではないな。)




