門出の影
王都の外門近く。
荷車や馬車が行き交う中、レオンたちは出立の準備を整えていた。
クラリスは兵士から受け取った地図を広げ、補給路と中継地点を確認している。
「ここを通れば最短ですが……教団が仕掛けるなら、街道沿いが怪しいですね。」
「うむ。」レオンが頷き、馬具を整えながら静かに言う。
「急ぎたいが、無闇に走って影に呑まれるわけにもいかぬ。」
その時だった。
セリオが突然、顔を青ざめさせて頭を押さえた。
「ひぃっ……き、来る! 来ますよ!!」
クラリスが目を細める。
「また始まったわね。今度は何?」
「な、何って……! あの……黒い翼……牙……ぎゃあああああっ!」
セリオはその場で尻もちをつき、必死に地面を指差した。
レオンが落ち着いた声で問う。
「見えたものを、順序立てて話せ。」
セリオは半泣きになりながら言葉を繋いだ。
「お、王都の外れ! 森の近くに……でっかい、でっかい……“二つ首の影蛇”が!!
旅人を丸呑みにして……兵士が槍ごと弾き飛ばされて……! 血が……血がああああ!」
クラリスがため息をつき、腰に手を当てる。
「……どうせまた当たるんでしょうね、その恐ろしい幻視。」
「そ、そうなんです!! 僕の“悪い予言”は100%当たるんです!! だから怖いんですぅ!」
周囲で馬車を整えていた兵士が、不安げに顔を見合わせた。
「……二つ首の蛇、だと? そんな魔物、噂でしか聞いたことがないぞ……」
「いや、辺境では影晶の瘴気で魔物が変異してるって話も……」
レオンは淡々と結論づけた。
「ならば向かうべきだ。放置すれば街道が断たれ、王都は孤立する。」
クラリスは剣の柄に手を添え、軽やかに笑う。
「また舞台の幕が上がるわけですね。――旦那様、準備は万全です。」
セリオは全力で首を振り、荷台の端にしがみついた。
「や、やめましょうよぉぉ!! 僕、戦うとか無理ですからね!? 足手まとい確定ですからね!? ほら、この震えた手ぇ見てくださいよ!!」
クラリスがさらりと返す。
「震えてるのは……逃げる足じゃなくて未来を掴む手よ、セリオ。」
「うわああああ! 名言ぽく言ってますけど僕の胃が死にますぅぅ!!」
レオンは口元にかすかな笑みを浮かべ、馬車に乗り込む。
「……行こう。影は我らを待っている。」
こうして一行は、不吉な予言に導かれるように、王都の外れへと進み始めた。




