宰相との謁見
王都の中心、白亜の王城。
民衆の不安をよそに、城内は静謐で重厚な空気に包まれていた。
レオンたちの馬車は中庭を通り抜け、やがて玉座の間とは別棟にある政務棟の前で止まった。
クラリスが一歩先に立ち、兵士へ声をかける。
「宮廷画家ノエル様、宰相閣下に面会の約定がある。」
兵士は驚いたように目を見開き、すぐに深く頭を下げて道を開けた。
セリオは小声で呟く。
「……宮廷画家の名声って、すごいんだな……。まるで王様に会いに行くみたいだ……」
「その通りだ。」とクラリスがさらりと返し、セリオは「えっ?!」と声を裏返らせた。
石造りの廊下を進み、重厚な扉が開かれる。
中は豪奢ながらも無駄を削いだ執務室――壁には地図と布令の文書が並び、机上には封蝋の山が積まれている。
その中心に座すは宰相オルヴィン。
長身の姿勢を崩さず、冷徹な眼差しで来訪者を迎えた。
「……宮廷画家ノエル殿。」
その声音は柔らかい礼を帯びながらも、底に鋼の響きを秘めている。
「この混乱の中、わざわざお越しいただいたこと、王国に代わり感謝する。」
レオンは静かに一礼した。
「王都の混乱は、旅の画布に影を落とすもの。……絵描きにできることは少なくとも、見過ごすわけには参りません。」
クラリスが横で控える一方、セリオは場違いな居心地の悪さに小さく縮こまっている。
「(こ、ここ……一番偉い人の部屋じゃないか……僕、帰りたい……)」
オルヴィンの眼差しがレオンを射抜く。
「……“影の教団”は動き続けている。イリス嬢の奪還、影晶の拡散阻止、そして民心の安定。
――この全てを同時に成すには、王国の力だけでは足りぬ。」
レオンは静かに答えた。
「……だからこそ、外から来た者の手が必要となる。」
一瞬、オルヴィンの唇がわずかに動き――彼らにしか聞こえぬほど低く囁かれた。
「“陛下”。」
クラリスの睫毛がぴくりと震えた。
だが次の瞬間、オルヴィンは表情を整え、再び朗々とした声で言う。
「宮廷画家ノエル殿。――王国は貴殿の力を必要としている。」
部屋の空気が張り詰める中、レオンはわずかに笑みを浮かべて応じた。
「光と影を描くのが画家の務め。……ならば、この国の影も、描き尽くすとしましょう。」




