影に揺れる王都
王都の高い城壁を抜け、馬車が石畳の街路へと入る。
かつては祭りの音楽や商人の呼び声で賑わっていた大通りは、今や不気味なほど静かだった。
両脇に並ぶ市場は半ば閉ざされ、木戸を打ち付ける音だけが乾いた響きを残す。
露店の棚は空に近く、商人たちは怯えた目で荷を抱え込み、家々の窓は固く閉ざされていた。
「……ひどいものだな。」
レオンが低く呟く。
「たった数日のうちに、この王都がここまで荒むとは。」
巡回の兵士たちが通りを行き交い、槍を構えて睨みを利かせる。
市井の人々はその背後に隠れるように身を寄せ合い、不安げな視線を交わしていた。
クラリスが窓越しに景色を見ながら、静かに言った。
「人々は“英雄の血”が奪われたと聞いています。 象徴を失った国は、心の拠り所を失う……それが最も恐ろしい混乱です。」
セリオは肩をすくめて身を縮める。
「な、なんか……市場も、墓場みたいに静かだよ。
ああ、次は“盗賊に扮した教団の手先が夜の市場を荒らす”とか予知しそうで怖い!」
クラリスが半眼で睨む。
「言霊にするのはやめなさい。そうなったらまた、私が踊る羽目になるでしょう?」
「い、いいじゃないですか! 僕は横で震えてますから!」
レオンは小さく笑い、しかしすぐに真顔へ戻る。
「民の目から光が消えている。……この影の広がり、まだ序の口に過ぎぬのだろう。」
馬車は王都の中心部へと近づき、遠くに白亜の王城が姿を現す。
だが、その城の背後に垂れ込める曇天は、まるで国全体を覆う影の前触れのようだった。




