名声が開く門
石畳の上を進む馬車は、検問の列の最後尾に加わった。
門前の広場には商人や旅人たちが不安げに集まり、兵士たちは一人ひとり厳しく荷を調べている。
緊張が走る空気に、セリオはごくりと唾を飲んだ。
「や、やばいぞ……。あの目つき、絶対怪しい奴は容赦なく捕まえる気だ……!」
「落ち着きなさい。」クラリスがさらりと言う。「旦那様の御名があれば、問題ありません。」
やがて馬車の番が来る。
門番の兵士が鋭い視線で覗き込み、低く問いただした。
「身分と目的を告げよ。」
レオンは窓を開け、静かに名を告げる。
「旅の画家――ノエル。」
その瞬間、兵士の目が見開かれた。
周囲の兵もざわつく。
「ノ、ノエル殿……!? まことに、あの……王都で名高き宮廷画家の……!」
「この目で本物を見る日が来るとは……!」
兵士は慌てて兜を脱ぎ、深く頭を下げた。
「無礼をいたしました! このような折にお越しいただけるとは、光栄の極み……!」
セリオはそのやり取りを見て、目を白黒させた。
「ま、まじで有名人だったのかぁぁっ!? 僕、隣で普通に“旦那様”とか言ってたんですけどぉぉ!」
クラリスがくすくす笑う。
「セリオ、あなたは案外幸運者かもしれませんね。」
「幸運どころか、胃がもたないよ……!」
門番は恐縮した様子で馬車を通すよう手を振った。
「どうぞお通りください! 王都に影の脅威が迫る今、ノエル殿のお力は何よりの支えとなりましょう!」
レオンは軽く頷き、視線を前へ戻す。
「……支えか。――ならば応えねばなるまい。」
馬車は白亜の城壁を越え、王都アルシオンの街中へと滑り込んでいった。
背後で、門兵たちのざわめきがなおも続いていた。




