囁かれる裏切りの影
馬車の中は暗く、窓も厚布で覆われていた。
わずかな灯火の揺らめきが、イリスの横顔を淡く照らす。
両手は縛られていたが、その瞳は決して怯えてはいなかった。
(……まだ落ち着ける。
この状況で必要なのは、恐怖に呑まれることではなく――観察。)
耳を澄ますと、外から小声が重なって聞こえてきた。
どうやら御者台の後方で、護衛の男たちが囁き合っている。
「……にしてもよ、随分と大掛かりだな。」
「仕方ねえさ。“辺境の旦那”が後ろ盾につかなきゃ、こんなことできるもんか。」
「しっ! 軽々しく口にするな!」
「だがよ、俺たちに流れてきた武器も兵糧も、全部――」
ごとり、と車輪が石を踏み、声が一瞬かき消される。
イリスは眉をわずかに寄せた。(辺境……やはり……)
再び耳を澄ますと、もう一人が低く答えるのが聞こえた。
「……教団だけじゃ、王都に楯突くのは無理だ。
“あの方”が影で糸を引いてるからこそ、俺たちは動ける。」
「それに……“象徴の娘”を手に入れた今、あとは――」
ガタンッ!
突然の揺れで会話が途切れる。御者が鞭を鳴らし、馬車は速度を上げた。
イリスは目を閉じ、呼吸を整える。
(辺境伯……そして教団。やはり二つは繋がっている。
けれど、敵の全貌はまだ掴めない。
――だからこそ、私は生きて、真実を持ち帰らなければ。)
闇に包まれた馬車の中、イリスの蒼い瞳だけが、確かな決意の光を宿していた。
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