街道の夜、剣舞と悲鳴
王都へと向かう夜の街道。
月明かりを背に進む馬車の中、三人の会話は途切れることなく続いていた。
クラリスが落ち着いた声で説明する。
「今の治安の乱れ……原因は軍の分断にございます。
“王国軍”は正規の兵を抱えておりますが、貴族派閥の“騎士団”とは足並みが揃わない。
“魔術師団”はフェルディナンド卿や三大魔女の統制下にあり、政治色が強い。
そして辺境軍……あれはもはやダリオス辺境伯の私兵のようなもの。王都からは制御困難です。」
レオンは頷き、短く言葉を添えた。
「力が多ければ統制も難しい。混乱の隙を影が突く……当然の帰結だ。」
セリオはすでに膝を抱え、小さく震えていた。
「えっ、そ、それもう完全に“襲ってください”って国が看板出してるのと同じじゃないですかぁぁ!? こ、怖い怖い怖い!」
クラリスが笑みを浮かべる。
「ふふっ、案外冷静に分析してますね。」
「いやいやいや! 冷静じゃないです! 僕もう寿命五年縮んでますから!」
その瞬間、セリオががばっと顔を上げ、血の気を引かせた。
「……き、来る……! こ、この先の林の中から、盗賊が……! 王都の混乱に便乗して、馬車を襲って……! うわぁぁ僕の未来視ほんと勘弁してぇぇぇ!」
護衛兵たちがざわめき、御者が手綱を強く握った。
レオンは窓越しに闇を見つめ、静かに呟く。
「……予兆か。」
次の瞬間、茂みから飛び出した十数人の盗賊。松明と刃を振りかざし、馬車を取り囲む。
「出やがったぁぁぁ!! ほんとに出たぁぁぁ!!」
セリオの悲鳴は、盗賊たちの怒号を上書きする勢いだった。
だがクラリスは剣を抜き、舞うように馬車を飛び降りる。
「――月華流舞・初型《花霞の歩》。」
夜気が裂け、銀光が舞う。
彼女の足取りは風のように軽やかで、盗賊が刃を振り下ろすより速く、その背後を抜けていた。
残されたのは切り払われた松明の炎と、地面に転がる盗賊の剣。
「ひぃぃ! 人間相手に狼より怖いぃぃ!」
セリオが両耳を押さえて絶叫する。
「セリオ、静かに。彼女の舞を見ろ。」
レオンの声音は静かだが、どこか楽しげですらあった。
クラリスの刃が弧を描き、三人、五人と盗賊が瞬く間に倒れる。
彼女は衣の裾を翻し、舞姫のように一回転すると同時に最後の男の剣を弾き飛ばした。
盗賊たちは恐怖に駆られ、散り散りに逃げ去っていく。
「……終わりです。」
クラリスが剣を収め、軽く息を整える。
「す、すご……っ! すごすぎるけど……僕、馬車の中で三回くらい死んだ気分です!」
セリオは涙目でツッコミを入れ、村人や護衛兵の笑いが漏れる。
レオンはわずかに微笑み、言った。
「恐怖に怯えながらも声を上げられる……それもまた才だ。だがセリオ、心臓は鍛えておけ。」
「無理ですってぇぇぇぇぇ!!」
夜の街道には、剣舞の残光と、少年の悲鳴がいつまでも響いていた。




