街道に潜む影
王都への帰路につく馬車の中。
レオン、クラリス、そして新たに加わったセリオの三人が揺れる車内で向き合っていた。
馬車は軋む音を立てながら、王都へ向けて街道を進んでいた。
夜風が吹き込み、御者の手に握られた手綱が小さく鳴る。
クラリスは窓越しに並走する護衛兵を見やり、口を開いた。
「旦那様。……今の王都、治安は乱れ始めていますね。」
レオンは頷き、短く答える。
「軍と貴族の力が分断されているからだ。」
セリオが恐る恐る問いかける。
「……軍、といいますと?」
クラリスは彼に向き直り、指を折って説明を始めた。
「まず“王国軍”。重騎兵や歩兵を中心にした正規の兵士たち。
そして“騎士団”。名門貴族の家から選ばれた精鋭騎士。
それに“魔術師団”。フェルディナンド家や三大魔女が管理して、結界や大規模魔法を担っています。
最後に“辺境軍”。これはダリオス辺境伯が実質的に支配していて……王都からは制御が難しいのです。」
レオンが言葉を継いだ。
「どれも本来は国を支える柱。だが、今は派閥争いに囚われ、力が噛み合っていない。
だからこそ、教団の影晶を使った襲撃にも後手に回る。」
セリオは膝の上で手を握りしめ、青ざめた顔で俯いた。
「……やっぱり……そうなんですね。」
クラリスが首を傾げる。
「どうしたの、セリオ?」
彼は唇を噛みしめ、震える声を絞り出した。
「見えるんです……この先で……国の混乱に便乗した盗賊が……馬車を襲うのが……!」
護衛兵たちがぎょっとして振り返る。
クラリスはため息をつき、しかし小さな笑みを浮かべた。
「……また当たりそうですね、旦那様。」
レオンは窓の外の闇を見据えながら、低く呟いた。
「ならば備えよう。未来は、恐怖に怯えて待つものではなく――切り拓くものだ。」
馬車の車輪は闇を進む。
そしてセリオの震える言葉通り、街道にはすでに“待ち構える影”が潜んでいた。




