予言と焦げスープ
焚き火の宴が続く広場の隅。
人々の笑い声に混じり、不釣り合いなほど小さな呻き声が響いた。
「ひ、ひぃ……まだ、まだ影が……」
振り返ると、痩せた青年が身を縮めていた。
髪は乱れ、顔色は蒼白。村人に支えられて座っているが、目は虚ろに宙をさまよっている。
「またか、セリオ……」と村人の一人が嘆息する。
「戦の前も“黒い狼が村を襲う”なんて騒いで……」
「けど……本当に当たっちまったんだよな。」
その言葉に、レオンの眉がわずかに動いた。
彼は盃を置き、静かに青年の前へ歩み寄る。
「……君の名は?」
青年はびくりと肩を震わせた。
「ぼ、僕は……セリオ……セリオ・カーヴァイン……です……」
クラリスが膝を折り、優しく声をかける。
「怖がらなくていいの。あなたが“影狼の出現”を言い当てたのね?」
セリオは唇を噛み、震える声で答える。
「お、恐ろしいものが……見えるんです。
遠い国で燃える戦の火……崩れる塔……黒い海に沈む街……
そして、影の中で笑う仮面の男が……」
言葉は途切れ途切れだが、誰もが息を呑んだ。
村人たちは顔を見合わせ、今さらながら「セリオの言葉が必ず当たる」ことを思い出していた。
レオンはしばし黙し、やがて低く告げる。
「……恐怖に怯えるのも才の一部。君は災厄を見抜く目を持っている。」
クラリスが微笑み、少し砕けた口調で続けた。
「大丈夫。旦那様と一緒なら、恐怖を力に変えられるわ。……たぶん。」
「たぶん?」と村人が首をかしげる。
「いや、ほら旦那様、戦いの時は頼もしいけど、料理の時は全然ダメで……」
「クラリス?」レオンの目が細くなる。
「昨日のスープなんて、真っ黒に――」
「……それは“影”ではなく、焦げだ。」
その場に小さな笑いが広がった。
緊張で固まっていた空気が、ふっと和らいでいく。
セリオもわずかに口元を動かし、俯きながら小さく笑った。
そして焚き火に照らされながら、恐る恐るレオンを見上げる。
その瞳に映ったのは、旅の画家ではなく――永遠の孤独を抱きつつも人を守ろうとする、不死の王の光だった。




